研究課題/領域番号 |
23K04028
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
砂金 伸治 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 教授 (10355878)
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研究分担者 |
日下 敦 国立研究開発法人土木研究所, 土木研究所(つくば中央研究所), 上席研究員 (60414984)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | トンネル / 変状 / 支保構造 / 音弾性 |
研究実績の概要 |
トンネル構造物は様々な流通ネットワークを構築するため建設が急激に進み,供用本数が増加している.トンネルの建設では,十分な注意を払って施工を行っているにもかかわらず,供用後に外力によるひび割れや盤ぶくれ等の変状が発生し,長期にわたる利用の中断や,最悪の場合はトンネルの使用に制限を生じる等,重大な社会的な損失を招く場合がある.このような事態を防ぐため,速やかな変状の検知や適切な補修を行う等の維持管理手法の高度化が求められている. トンネルの変状を検知する方法としては断面の変位や路盤の隆起速度の計測や,覆工に発生するひび割れの観察が行われている.しかし,前者はその傾向を把握するために月~年単位の時間を要し,気象や交通量等の現場の条件の存在も相まって計測精度に限界がある.また,後者はひび割れが地山の外力作用かコンクリート等の劣化によるものかの判断が点検者によって異なる場合があり,原因の特定に課題がある.しかし,時間と精度の両方を合理的に解決できる有効な手段が存在しておらず,点検等を通じてこれらの検知の方法が採用され続けている. 本研究では,従来よりも現場に臨場している状況下における短時間で,極力正確に構造体が有する危険性を評価する手法を構築することを目的とする.そのため,トンネルの覆工コンクリート等,支保構造内における音波の伝搬速度を計測し,その音速の変化と,内部の応力やひずみ等の力学的な特性値との関連性を明らかにし,音弾性理論による崩壊危険性の評価手法を提示する.具体的には,トンネルの内側のコンクリート部材の多数の点から,その内部の音波の伝播速度を推測するとともに,その速度の分布傾向と発生する内部の応力等の力学的な特性値の関連性を分析する.さらに実際のトンネル構造の安定性との関連を検証することにより,トンネルが致命的な崩壊に至る予兆が含まれているかを推測する手法の構築を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は既往のトンネルにおける変状等の発生の実態を把握するために,トンネルの変形や変状の発生に関するデータを収集するとともに,ひび割れの分布や断面の計測結果等をもとに,変形を生じている場合に,変状を生じた事例と照合させ,その傾向を把握することを試みた. 具体的には,供用中のトンネルにおいて,事象としては特に盤ぶくれによる変状に着目し,供用後に顕著な盤ぶくれを生じたトンネルに対して,詳細点検結果や施工時の記録を分析し,それらの相関について考察した.その結果,変状区間についてマクロにみると,連続的なインバートの未設置,掘削時の湧水,弾性波速度変化点の三要素が共通点として挙げられ,これらの区間に対して,今後優先的な補強対策の検討が必要である可能性が高いと推測した.また,そのトンネルにおいて発生すると考えられる応力状態を検討した.加えて,応力状態と音速変化率の関連性を把握するための模型実験を行うための基礎的な特性把握を行い,コンクリート面における音速の変化に関する基本的なデータの取得を試みた.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度以降は盤ぶくれを含む,変状を生じているトンネルについて,点検結果や施工時のデータの分析の深度化を行い,それらの相関についてさらに考察を加えるとともに,ひび割れの分布や断面力の計測結果等をもとに,変形を生じている場合に計測によって得られた応力状態等の分析を通じて,変状を生じた事例と照合させることにより,その傾向を検討する予定である. また,応力状態と音速変化率の関連性を把握するための模型実験を行う予定である.具体的には,部材の応力状態の変化による音速の変化に注目し,トンネル構造の一部を模擬した仕様の異なるコンクリート製の小型供試体に対して無応力の状態から変状を生じる応力状態下における音速変化率を把握するとともに,併せて合理的な計測方法の検討を実施する.また,実験結果に基づき種々の部材条件における無応力状態における音速値(初期値)の把握を行うとともに,部材の応力状態と音速変化率に関して定量的に分析する. さらに,外力作用時における構造内部の応力状態に関して理論的な検証,また,解析的な検証を行い,音速変化による応力状態の把握を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度においてデータの分析を行うにあたって,想定よりも多くのデータの提供を無償で受けることが可能となり,それにより,その取得に係る費用の低減を図ることが出来た.また,今年度の実験的な検討を行うにあたっては,予備的な検討を通じて,供試体の個数やその種類の変更において,一度に供試体の作成を行った方が費用の拠出が効率的であると判断したことから,2023年度は主にデータの分析を多く実施し,その費用の低減を図ることによって,2024年度以降の実験を効率的に実施することを想定しており,2023年度の費用を2024年度以降に使用することが望ましいと考えた.そのため,2024年度以降において,実験において供試体の作成費用の低減を図り,より実施工の状況を反映した供試体を作成し,研究を遂行する予定である.
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