研究実績の概要 |
本研究は,地域固有とされる農村部の「景観的価値」を読み解くため,特有の地理条件を有する秋吉台周辺地域を事例に,物的環境として可視化された諸々の要素の特性及び要素間相互の連関構造の解析と合わせ,村落社会の中で生じた近代以降の共同性変質のプロセスと景観変化を関連づけた検証を試みるものである。初年度となる2023年度は,対象地域の景観を構成する諸要素(建築物,耕作地,山林,水利ネットワーク,道路網等)に関する現在の基本情報を収集するとともに,GISを用いたデータベース構築を実施した。 加えて,当該地域の土地利用に関し,戦前から戦後にかけて耕地整理及び圃場整備が繰り返し実施されてきた経緯を加味し,履歴を遡り明治初期の土地利用復原作業も試みている。 その際,研究代表者及び研究分担者は,それぞれの専門性の観点からデータの収集を行っており,1つ目は,土地台帳や耕地整理・圃場整備に関わる記録文書の収集・解読及びデジタルデータベース化,2つ目は,対象地域の土地や水資源の管理に関する社会組織と個々の組織運営の経年的変化に関するヒアリングや記録資料の収集及び体系化,3つ目は,対象地域に残る様々な年代の建築物の図面採取及び図面のデジタル化作業となっている。 以上の作業を踏まえ,当該地域の景観構成を検討する上で,秋吉台特有の土壌や湧水などの固有の環境が,同地域での営農及び近代産業の進展に多大な影響を及ぼしてきており,建築物の構成にもその関連を見出すことが出来ることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,当初予定していた現地での資料収集及び研究者間での打ち合わせなどについて,円滑に実施することが出来ている。また,資料収集に関しては,現地の関係者の多大な協力もあり,想定以上のデータを入手出来ており,今後の分析作業において最大限の活用を行う予定である。 但し,現地での個々の建築物の詳細な調査(図面採取など)に関連しては,調査対象者との日程調整に際し,学外分担者の参加が困難となったケースも有り,次年度の現地調査の充実を図りたい。
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今後の研究の推進方策 |
2年目以降に向けては,初年度に作成しているデータベースの補強を図るため,追加での資料収集及びデジタル化作業,現地での建築物等に関わる実測調査を継続して実施する。 加えて,研究代表者と研究分担者の有する個々の専門性に基づく調査成果を統合し,対象地域に生じた経年的変化との関連を考察するため,同一時間軸の中で個別データを位置づけるとともに,相互の関連について検証を行うことで,景観構成要素間の通時的な連関構造の解析・体系化作業を行いたい。 その上で,最終的には同地域の景観特性を明らかにするとともに,地域固有の文化的景観の保全や継承を見据えた計画手法の構築に繋げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査時の学外分担者の参加に際し,調査対象者のご都合を考慮し,調査日の変更などが生じたため,一部当初予定していた旅費などの経費を次年度使用することとなった。その為,次年度より充実した現地調査を実施することで,個別の建築物の調査に関し,詳細なデータ収集を行いたい。
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