研究課題/領域番号 |
23K04371
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
押田 京一 信州大学, 工学部, 特任教授 (90224229)
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研究分担者 |
竹内 健司 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (20504658)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 炭素材料 / 熱伝導性 / 透過電子顕微鏡 / 偏光顕微鏡 / 画像処理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、新規発見した特異な構造の熱伝導現象を解明することである。本構造の形成メカニズムを探究し、表面の炭素六角網面のエッジサイトの状態およびこの構造部分がどのように内部組織に接続して熱伝導性を高めるのか、さらに高集積化された回路の膨大な発熱問題を解決できるかを探究する。 昇温速度、熱処理温度、保持時間を変化させて同材料の熱処理過程を、マクロ組織を偏光顕微鏡(OM)と走査電子顕微鏡(SEM)で、ミクロ構造を透過電子顕微鏡(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)で観察して追跡し、特異な構造が何処にどのように生成するのかのメカニズムを検討し解明した。 特異な構造がedge-on表面がどのようになっているのかを調べるため2000℃で熱処理した試料をAFMのコンタクトモードにより原子サイズレベルで観察した結果、表面の凹凸は非常に少なく、最大でも1nm程度であり、ミクロンオーダで広く平坦になっていた。AFM像の一部の表面プロファイルをとり、凹凸の変化の間隔を観ると、炭素六角網面の層間隔の約0.34nmとなっており、炭素六角網面が試料表面に垂直に現れたedge-on状態となっていることがわかった。このような特異な構造は、その形成過程の界面および熱処理条件の違いによって生成されるものと考えられ、生成条件がコントロールできれば、特異な形状部分を選択的に形成可能であると考えられる。画像処理してノイズ除去した像の炭素六角網面のエッジ部分に沿うライン上の輝度が約0.23nm間隔で変化しており、この測定結果からのグラファイトのzigzag-edgeの原子間隔に相当し、この部分はzigzag-edgeが現れていることが示された。すべての観察面がedge-onであるとするとAFM像の暗い部分は炭素六角網面のarmchair-edgeであることが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の計画に従い、各種顕微鏡を用いて特異な構造の熱処理過程を追跡し、その形成メカニズムの検討を行って形成過程のモデルを作製した。偏光顕微鏡観察から試料は熱処理温度300°C程度で流動性を帯び、内部に気体が発生して発泡が始まる。これは流動性を帯びて炭素化が進展するのと揮発性物質の発生のタイミングが重なるためと考えらる。熱処理温度が上昇するに従い、発泡した空孔の壁面が薄くなり、炭素六角網面は薄壁に対して垂直(Edge-on)となっていることがわかった。TEM像と2次元高速フーリエ変換により得られたパワースペクトル像およびその積分結果から特異な構造部分も熱処理温度が高くなると炭素六角網面の間隔(d002)が狭くなり、黒鉛化が進んでいる様子がわかった。以上のように試料の熱処理過程におけるOM観察による組織・構造変化と質量変化を追跡した結果、熱処理により流動性を帯びた試料中に揮発性物質が発生し、気体に満たされた空孔が徐々に大きく成長して行く。この過程で炭素六角網面が形成されるが、分子量の大きな先駆体のピッチ材料では、炭素六角網面が大きく成長して動きにくくなり、場所によっては炭素六角網のbasal面が空孔表面で垂直に配置する。このタイミングで組織が固まり、Edge-onのみの特異な形状が残されたと考えられる。basal面が空孔の表面に炭素六角網面は必ずしも沿っておらず、その配向は生成過程、表面の接している物質により決定されることがわかった。 研究代表者はフランスに令和5年6月に渡航し、上記の実験結果について連携研究者のBonnamy博士とディスカッションを行って、それまでの研究成果をまとめた。この研究成果は同年7月にメキシコのカンクンで開催された国際会議Carbon2024でKeynote speakerとして口頭発表を行った。 以上のように、おおむね順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにわかった特異な構造を利用した高熱伝導材料を作製し、その熱伝導メカニズムを探求するため、今後以下の研究を進める。 (1)【熱処理時の接触物質による表面の組織・構造の制御】炭素の組織をコントロールするため、金属あるいはHOPGなどのグラファイト基板上に特異な構造の炭素形成の実験を繰り返し、接触界面で炭素六角網面の方向の制御手法を確立する。炭素六角網面同士の接合部分をマイクロトームおよび集積イオンビーム(FIB)等で断面を薄く切出し、ラマン分光、TEM観察および画像処理により結合状態を解析する。 (2)【 CNTをフィラーとしたコンポジット熱伝導シートの作製と評価】熱伝導性を高めるためカーボンナノチューブ(CNT)コンポジット材料を作製し、高性能化の可能性を探究する。単体での熱伝導率1200 W/m・K、システム全体として他を大きく凌駕する高性能な熱伝導システムの構築を目指す。令和5年度に赤外線カメラを購入して熱伝導の状況を確認する予備実験を行っている。 (3) 【 熱伝導率の測定と熱伝導メカニズムの解明】模擬発熱体を組合せて熱伝導システムを構成し、熱の移動状態を申請設備の赤外線サーモグラフィおよび画像処理で解析する。 上記の実験結果を解析し、超高熱伝導メカニズムを解明し、基礎科学を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請予算額に対し配分額が減少したため、当初購入予定であった赤外線サーモグラフィーカメラシステム・PI640iMOの代わりに、研究遂行に大きな支障のない性能の別のカメラシステムに変更し、購入金額が少なくなった。 特異な形状のカーボン薄片を共同で発見した炭素材料の専門家のBonnamy博士のアドバイスを受け、TEM観察などの実験を行うためのフランス出張については、別予算で賄ったため、費用が発生しなかった。次年度繰り越し費用により再度フランスに出張し、実験及び成果のまとめを行う予定である。
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