研究課題/領域番号 |
23K04372
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
川口 昂彦 静岡大学, 工学部, 助教 (30776480)
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研究分担者 |
脇谷 尚樹 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (40251623)
坂元 尚紀 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (80451996)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 窒化物 / エピタキシャル薄膜 / PLD / 逆ペロブスカイト |
研究実績の概要 |
磁気信号の高感度検出に重要な「交換バイアス」の発現には、一般に強磁性/反強磁性の接合素子が必要である。これに対し、本研究ではMn3(Ge,Mn)Nにおいて、単一物質にも関わらず室温で交換バイアスを示すことを独自に見出している。現行の磁気デバイスは結晶方位の制御も重要とされており、エピタキシャル薄膜が望ましい。そこで本研究では、Mn3(Ge,Mn)Nエピタキシャル薄膜の作製とその磁気特性の調査について研究を進めている。 本年度では、まず薄膜作製時の組成を決定するため、まずMn:Ge=(3+x):(1-x)と定義した組成xの異なる多結晶粉末試料を作製し、磁気特性の組成依存性を調査した。格子定数の変化から、x=0-0.6の間ではGeサイトへのMn置換に成功したと考えられる。磁化測定により、x=0.1-0.5の組成において極低温での交換バイアスの発現を確認した。一方で、室温においても交換バイアスを示すのはx=0.2前後の組成のみであることが分かった。 次に薄膜試料の結果を示す。MgO(001)およびGaN(0001)/サファイア基板を用いてPLD法で薄膜作製を行った。基板温度500℃~700℃で、x=0.2付近の膜組成を有するMn3(Ge,Mn)N薄膜が得られた。これらの薄膜のXRD図形から、MgO(001)基板上では(001)面外配向エピタキシャル薄膜が得られ、GaN(0001)上では(111) 面外配向エピタキシャル薄膜が得られたことが分かった。ここで、GaN上では2種類の面内配置が想定されたが、格子不整合性f=0.2%の配置ではなく、f=14%の配置が実現するという興味深い振る舞いが見られた。これは界面でN原子を共有する構造となったためだと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初の計画では、(1)粉末試料における磁気特性の組成依存性の調査、(2)結晶方位や格子歪の異なるエピタキシャル薄膜の作製と磁気特性の評価、(3)理論計算による実験結果の理論的考察、といった3段階を予定している。合計3年間の1年目である本年度の研究により、(1)は完了した。(2)の結晶方位の異なるエピタキシャル薄膜の作製は達成している。一方、それらの薄膜の磁気特性評価や格子歪の異なる薄膜作製および、(3)の内容は次年度以降の課題である。以上のように、計画全体の3分の1程度完了していることになるため、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、Mn3(Ge,Mn)Nの(001)配向あるいは(111)配向のエピタキシャル薄膜、および多結晶薄膜が得られているので、これらについて磁化測定を行い、磁気転移温度や交換バイアスの発現の有無について調査する。また、Mn3(Ge,Mn)Nは異方的歪により生じる結晶格子の変形により磁気物性が変化することが、理論計算やA=Sn, Ni, GaなどのMn3AN薄膜の実験的な報告から示唆されている。そこで本研究においても基板との熱膨張係数差を利用した格子歪の導入と、それによる交換バイアスへの影響を調査する。具体的には、熱膨張係数の小さいSi基板(~3 ppm/K)と、熱膨張係数の大きいCaF2基板(~20 ppm/K)を採用する。Si基板上では多結晶薄膜となることがこれまでの研究で分かっているが、TiNバッファー層を形成することでエピタキシャル成長できることがMn3CuN薄膜の研究から示唆されている。また、磁気デバイスでは交換バイアスだけでなく、抵抗率や磁気抵抗効果も重要なので、これまで得られている薄膜も含めて抵抗率や磁気抵抗効果を測定する。さらに、Mn3(Ge,Mn)N薄膜における磁気物性を理解するために、電子構造に対する格子歪の影響を理論的にも考察する。具体的にはアドバンスソフト社のNanoLaboをユーザーインターフェースとしてQuantum Espressoを利用することで、バンド計算を行う。これを、実験的に得られた値を参考にして計算を行うことで、組成や格子定数の影響を準定量的に調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、理論計算ソフト(NanoLabo)を本年度購入する予定だったが、ライセンスが年次更新であることを考慮して理論計算を短期間でまとめて行った方が安価に済むと判断し、実験的な結果が十分に出てから計算ソフトを購入することに変更した。また、室温以下の低温測定は現在、分子科学研究所の共同利用機器を用いることで行っているが、今後試料が増えていくことを考慮すると、詳細な測定を行う試料を選定できるように、自身の研究室で簡単な測定を行えるようにする必要があると考えた。そこで低温測定装置を立ち上げるにはまとまった予算が必要である。以上のことを考慮して、次年度の予算総額を確保できるように、本年度の使用額を次年度に残した。
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