研究実績の概要 |
希土類系高温超伝導体(RE123)は、優れた電気輸送特性を示すことから実用化に向けた研究開発が進んでいる。これまでに、同特性を最大化する材料組織を解明するためのイオン照射・欠陥注入実験を進めてきた。当該年度は、はじめに44, 66, 84MeV Au照射試料の高分解能断面電子顕微鏡観察により、これまで明らかになっていなかった数十MeVイオンビームによる欠陥の微細構造を調べた。その結果、同イオンエネルギー帯では1)1次元的に配列した球状欠陥(直径5-10nm)と2)同配列に沿った線状欠陥(直径1-5nm)の2つの欠陥が存在し、イオンエネルギーの増加とともに主成分が前者から後者へと移行することを見出した。この様な移行が電気輸送特性にどう影響するかを調べるため、24,44,55,66,75,84MeV Au照射試料の77K/自己磁場下での臨界電流密度を測定・比較した。その結果、線状欠陥が現れ始めるイオンエネルギーを境に臨界電流密度の最大値が不連続に上昇することを見出した。現在、イオン照射条件をより広範囲かつ高精度とした実験により詳細な機構解明を進めている。 また本研究で合成したRE123薄膜は低磁場で顕著なイオン照射効果を示すことから、これを用いて新しい原理に基づく超伝導ダイオード効果の探索を試みた。具体的には、表面垂直方向に対し30°傾いた1次元欠陥を注入し、この傾斜面と直交する臨界電流を表面垂直磁場中で測定した。その結果、この臨界電流が正負電流方向に対して約3%の非対称性を示すことを見出した。これにより、複雑な微細加工を必要とせず、アライメントが容易な表面垂直磁場でも動作する新しい超伝導ダイオード効果の実証に成功した。
|