研究課題/領域番号 |
23K04379
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
廣井 慧 島根大学, 学術研究院機能強化推進学系, 助教 (10761588)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | PDF / リチウム過剰系層状酸化物系正極材料 / 結晶PDF解析 / 高エネルギーX線回折 / X線全散乱測定 |
研究実績の概要 |
本申請の目的である「LLO正極材料を高容量化するために必要な条件は何か」という問いに対して原子配列の観点から答えるべく、2023年度はSPring-8にてビームタイムを獲得し、リチウム過剰系層状酸化物(LLO)系正極材料に対する高エネルギーX線回折測定を行った。測定の結果、幾つかのLLO系正極材料の二体分布関数(PDF)を得ることに成功した。PDFは申請者が独自に開発した結晶構造解析手法であるExPDF解析を行う際に必要となる情報である。ExPDF解析は原子配列の乱れが含まれる正極材料の構造解析に適しており、解析を進めることで、電池特性に影響を与える因子を見つけ出すことが期待される。 上述のExPDF解析は、既存技術による解析が難しい結晶相と非晶相の混合物に対しても有効である。2023年度には、ExPDF解析を利用した構造解析をボールミルによって粉砕したB添加Si-Geに対して実行し、結晶相と非晶相それぞれのPDFに分離することで原子配列を調べることを示した。さらに、結晶相と非晶相のモル分率も導出することができることを示した。この成果により、本申請で利用するExPDF解析が乱れた結晶性材料に対して極めて有効であることを改めて示すことができた。これらの成果は応用物理学会等で公開したほか、Journal of Non-Crystalline Solidsにて掲載が認められた。 また、本研究課題の予算を使用し、所望の充放電状態にあるLLO正極材料の合成環境の構築を進めている。この計画により、試料合成を依頼している研究協力者の負担軽減のほか、任意の組成・充放電状態にある正極材料をいつでも合成することができ、本研究目的の達成を実現できると期待される。加えて、島根大学にはラボPDF測定装置が導入されたため、分析の面でも研究が飛躍的に加速しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は当初の予定通り放射光施設SPring-8のビームタイムを獲得し、リチウム過剰系層状酸化物(LLO)系正極材料に対する高エネルギーX線回折測定を行った。測定によって試料の二体分布関数(PDF)を得ることに成功した。 LLO系正極材料の構造解析を効率よく行うために、試料合成環境の構築を推進した。具体的には充放電装置を導入し、電池として動作する電極セルに対して充放電操作をいつでも行うことができることができるようになった。島根大学には2024年1月に高エネルギーX線回折測定を行うことができるX線回折装置が導入され、いつでも試料に対するPDF測定およびPDF解析ができるようになった。充放電装置の整備と合わせることで、迅速な測定・解析環境が整った。 2023年度は、LLO系正極材料の構造解析に使用するExPDF解析を利用した研究報告を行った。対象はボールミルによって粉砕したB添加Si-Geであり、大量の非晶中にわずかな結晶相が含まれる系である。ExPDF解析を利用することで、結晶相および結晶相それぞれのPDFを分離することに成功したうえ、結晶相・非晶相の分率の決定に成功した。この成果は論文として投稿し、2024年3月にJournal of Non-Crystalline Solidsに掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は6月にSPring-8でのビームタイムを獲得しており、リチウム過剰系層状酸化物(LLO)系正極材料に対する高エネルギーX線回折測定を実施する。4月に研究協力者と打ち合わせを行い、試料合成を依頼した。測定試料はニッケルまたはコバルトを多く含んだもので、20回程度の充電・放電を施したものを用意する予定である。2023年度、2024年度のSPring-8での測定データを合わせてLLO系正極の構造と充放電容量およびサイクル特性に関する相関をまとめ、論文として投稿する予定である。 また、2024年度9月末を目処に試料合成環境の整備を進め、手元で所望の充放電を施した試料を用意する環境を整える。具体的には、循環精製装置付きグローブボックスを立ち上げ、電極セルの組み立てから充放電操作までを申請者が行うことができるよう整備を進める予定である。次いで、2024年度末を目標として、上述の充放電操作を行った正極材料に対して島根大学所有の高エネルギーX線回折装置(ラボPDF測定装置)を使用したPDF解析を行う。ラボPDF測定装置の特徴の一つとして高い装置分解能が挙げられ、本研究のリチウム過剰系層状酸化物の構造解析に適している。今後は高エネルギーX線回折測定を放射光施設利用からラボPDF測定装置利用にシフトし、高い即時性と合成条件の自由度を活かした研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度購入した充放電装置の金額が当初の想定から大きくずれ、初年度予算の大半を使用することとなった。そのため、他の使途と調整せざるを得ず、若干の未使用予算が生じた。これを次年度使用とし、主に試料合成環境の構築に必要な費用に充てる予定である。
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