研究課題/領域番号 |
23K04384
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
赤星 大介 東邦大学, 理学部, 教授 (90407354)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 超巨大磁気抵抗 / ペロブスカイト型構造 / マンガン酸化物 / 化学置換 |
研究実績の概要 |
NdBaMn2O6は室温で超巨大磁気抵抗(CMR)効果の発現が期待される物質であるため、基礎、応用の両観点から注目されている。本研究の最終的な目標は、元素欠損や化学置換などの化学的乱れがNdBaMn2O6の物性に与える効果を調べ、応用につながる知見を得ることである。応用につなげるためには、NdBaMn2O6の強磁性金属相を安定化し、電荷・軌道秩序絶縁体相を磁場に対して不安定にすることが重要である。 <NdBaMn2O6のCr置換に関する研究> 代表者は以前の研究で、Mnサイトの一部をCrで置換した試料において、磁場誘起の電荷・軌道秩序絶縁体―強磁性金属転移を観測した。今回、Crの置換量を系統的に変化させたNdBaMn2O6試料を作成し、その物性を調べた結果、置換量が5%付近が最適な置換量であると判断した(これよりも置換量が多すぎると強磁性相が抑制されてしまい、少なすぎても磁場誘起の相転移が起こらない)。ただし、Cr置換したNdBaMn2O6試料の質が少し良くない可能性があり、これは次年度以降の検討課題である。 <NdBaMn2O6の元素欠損に関する研究> 代表者は以前の研究で、Baの一部を欠損させると、NdBaMn2O6の強磁性転移温度が上昇することを明らかにしている。今回、欠損量を系統的に変化させた試料を作成し、その物性を調べた。その結果、10%の欠損量が最適(強磁性転移温度が最大になる)であることがわかった。また、興味深いことに、5%程度欠損させることで電荷・軌道秩序転移温度も上昇することが新たにわかった。ヨウ素滴定法により、Mnの平均価数を決定した結果、Ba欠損には電子ドープと同等の効果があることがわかった。Ba欠損にともなう強磁性金属相の安定化は電子ドープの効果によるものである。 以上の結果は、CMR効果を利用した新しい磁性材料開発の重要な知見になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の研究課題は、”NdBaMn2O6の最適なCr置換量および最適なBa欠損量を明らかにする”であった。具体的には(1)Cr置換したNdBaMn2O6試料に関しては、置換量が5%付近の試料の磁性、電気抵抗を重点的に調べる、(2)Ba欠損したNdBaMn2O6試料に関しては、欠損量が10%付近の試料の磁性、電気抵抗を重点的に調べる、というものであった。上の”研究実績の概要”で述べたとおり、令和5年度はおおむね計画通りに研究を進めることができた。現在は、予定通りに令和6年度の研究計画を進めているという状況である。 現段階では研究計画はおおむね順調に進んでいるが、検討するべき課題が一つある。それは、”研究実績の概要”で述べたCr置換したNdBaMn2O6試料の質に関してである。一般的に、試料の質が悪いと相転移温度が低下したり、転移にともなう変化がブロードになったりする傾向にある(NdBaMn2O6試料は特にその傾向が強い)。これらの傾向は応用を考えるうえでは不利である。Cr置換したNdBaMn2O6試料には、転移がブロードになる傾向が見られた。ただし、この原因は試料の質ではなく、試料の本来の性質である可能性もあるので、慎重な検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は計画通り、Cr置換、Ba欠損がRBaMn2O6の多重臨界点近傍(R = Nd1-xSmx)の物性に与える効果に関する研究を進める。具体的には(1)Cr置換量を最適値(5%)に固定し、Ndサイトの一部を他の希土類元素で置換したNdBaMn2O6試料の物性を調べる、(2)Ba欠損量を最適値(10%)に固定し、Ndサイトの一部を他の希土類元素で置換したNdBaMn2O6試料の物性を調べる、という内容である。 同時並行で、Cr置換したNdBaMn2O6試料の作成条件の再検討を行い、上述の課題である試料の質の改善を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
磁気特性測定装置(MPMS)にトラブルが生じ、しばらくの間、MPMS装置が使用できない期間があった。そのため、MPMS装置を動かすのに必要なヘリウムガス(消耗品費の大部分を占める)の需要が予定よりもだいぶ少なくなり、その結果、次年度使用額が想定よりも大きくなった。 次年度使用額に関しては、MPMS装置の修理およびメンテナンス費用に回す予定である。
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