研究課題/領域番号 |
23K04401
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
江頭 港 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20304842)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | リン酸塩回収 / マグネシウム電解 / マグネシウム表面処理 |
研究実績の概要 |
排水中でのマグネシウム電極の電解により、電気化学的にリン酸アンモニウムマグネシウム六水和物(struvite)を析出するリン回収法に着目し、マグネシウムの表面処理がstruvite生成におよぼす影響を明らかにすることが、本研究の目的である。マグネシウム表面において人工的な不働態となるような、含酸素基や含窒素基などを有する前処理剤を適用し、その効果を比較検討する予定である。5年度はこのうち含酸素基をもつ水溶性の高分子化合物,ポリアクリル酸(PAA), ポリエチレングリコールb(PEG), ポリビニルアルコール(PVA)による浸漬前処理の効果を検証した。以前の検討例では、排水処理用のパイロットプラントを用いて大電圧を印加する試験が主流である。これに対し、本質的な電気化学反応におけるパラメータを抽出するため、まず材料評価用の微小電解セルを用いてstruvite析出の再現を試みた。模擬的なリン含有排水として、20 mmol/Lリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)水溶液を用い、Ag/AgCl参照極,純マグネシウム板作用極,白金対極を備えた微小試験セルを構築した。これを用いてマグネシウム電極の定電位電解を行い、マグネシウムの電位-1.4 V vs. Ag/AgCl以上で顕著な電解電流の増大、および電解後電極重量の増加を確認した。電解後のマグネシウム表面には柱状析出物が観測され、struvite生成の再現を確認した。次いでマグネシウム電極をセル組み込み前にPAA, PEG, PVAそれぞれの1g/L溶液に浸漬し、未処理のマグネシウム電極と電解およびstruvite析出挙動を比較した。これらのうちPVAに浸漬したときに電解電流の顕著な増大が見られた。PVA浸漬後のマグネシウム表面には繊維状PVAが被覆しており、表面近傍での物質移動に好ましい効果があったものと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究でのstruvite析出に至る電気化学プロセスでは、対極での水の電解による液のアルカリ化がstruvite生成に寄与する。このため電解セルのレイアウトが電解効率および再現性に影響する。この理由で電解セルの選定および再現性の確認を慎重に行ったため、本年度は当初の予定より若干進捗が遅れる結果となった。既にセルの選定は終了し、また対極の影響の見積もり法、対極の影響を排除した評価の方法も確立したので、次年度以降の研究の遂行に問題はない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではマグネシウムの陽極酸化に伴うstruvite生成に基づくものであるが、現行のプロセスでは対極での水の電解によるpH上昇も利用している。マグネシウムは熱力学的には水との酸化還元反応が進行するはずであり、通常はマグネシウム表面の不動態により水との反応が速度論的に抑えられている。本年度の研究を進める過程で、マグネシウム金属を水に浸漬した時点で、マグネシウムと水との反応がある程度進行する様相がみられた。不動態を制御することでマグネシウムと水との直接的な反応が促進できれば、無電解でstruviteの生成が可能となる。またそれには至らないとしても、マグネシウムと水との反応速度が向上すれば、電解での過電圧の低減が可能となり、省エネルギー化につながる。次年度以降ではマグネシウムと水との反応にも焦点を当て、開回路電位の変化などを通じてマグネシウムの自己放電反応過程を追跡したい。マグネシウムの表面修飾の方法としては、当初予定のものをそのまま適用する。ただし表面修飾の評価として、試料水に浸漬したときの自己放電反応速度に着目して検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」に記した通り、当初計画と比較して、試験セルの構成および再現性の確認に想定以上の時間を費やしており、研究は当初計画より遅れている状況である。そのため外部に打合せを打診できる成果が得られておらず、「消耗品費」の一部および「研究打合せ旅費」の全額を次年度使用額に計上している。前述の通り材料評価の方法は概ね確立しており、次年度には計画通りの遂行が期待される。次年度使用額は、次年度計画に沿って研究を遂行する上での消耗品費など、および研究打合せ旅費として使用したい。
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