研究課題/領域番号 |
23K04407
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研究機関 | 埼玉工業大学 |
研究代表者 |
政木 清孝 埼玉工業大学, 工学部, 教授 (30323885)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 摩擦攪拌接合 / 難燃性マグネシウム / レーザピーニング / 表面改質処理 / 疲労特性評価 / Dry-LP処理 / HH-LP処理 |
研究実績の概要 |
鉄道車両などのような大型輸送機器のさらなる軽量化の手段として,難燃性マグネシウム(Mg)合金の利用が期待されている.大型輸送機器の製造には溶接などによる部材の接合が不可欠であるが,難溶接材として知られるMg合金においては摩擦攪拌接合(FSW)の適用が見込まれている.一方で,構造部材における接合部位は最弱部となりやすく,特に輸送機器などでは疲労破壊に対する対策が重要である.本研究では,パルスレーザを照射することによって生じる衝撃波を利用するレーザピーニング(LP)処理に着目し,処理によるFSW接合部の高強度化を図るとともに,研究協力者らによって開発された新たな二種類のLP処理(Dry-LP,HH-LP)を適用することで,施工時のパルス幅の違いによる改質特性の違いについて検討を行おうとするものである.本年度は,所属先が変更となった関係から,新規に難燃性Mg合金のFSW接合技術の確立から着手しなければならなかった.しかし,本年度中のFSW接合技術の確立には至らず,目的①:Dry-LP処理したFSW継手材の組織変化と疲労特性の調査は先送りせざるを得なかった.しかし,目的②:ハンドヘルドレーザ発振器のLP処理デバイスとしての有効性調査に関しては,一般的なアルミニウム合金(A2024)材に適用して平面曲げ疲労試験を実施し,疲労特性の改善効果と疲労き裂進展寿命の遅延効果(破断寿命の延伸効果)を確認することができた.このとき,従来のショットピーニング(SP)処理のほか,Dry-LP処理を適用した素材についても同様の調査を行うことで,ピーニング処理の違いによる疲労特性の違いについて検討することができた.LP施工時のパルス幅を短かくすると,被加工材表面近傍の組織をより強化することができ,より高い疲労き裂進展抑制効果を得られることを明らかとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)難燃性Mg合金製FSW継手への衝撃波付与による組織変化と疲労特性改善 本来は,難燃性Mg合金のFSW継手を作製し,そこにDry-LP処理を適用する予定であった.しかし,所属先の移動に伴って新規にFSW接合技術の確立から開始する必要があり,今年度中のFSW接合技術の確立には至らなかった.そのため,難燃性Mg合金を供試材とした研究を進めることができなかった.ただこれと並行して,疲労特性調査に使用する平面曲げ疲労試験機のオーバーホールを行い,次年度に向けた研究設備の整備を行った. (2)組織変化特性やき裂進展特性におよぼすパルスレーザのパルス幅の影響調査 上記のとおり難燃性Mg合金に関する研究業績を上げることができなかったが,ハンドヘルドレーザ発振器のLP処理デバイスとしての有効性調査に関する研究に関しては,下記の成果を上げることができた.A2024アルミニウム合金を供試材として,研究協力者であり開発者の佐野智一氏の協力を得てパルス幅がフェムト秒オーダーのDry-LP処理を適用するとともに,同じく研究協力者でありHH-LP処理の開発者である佐野雄二氏の協力を得てサブナノ秒オーダーのHH-LP処理を適用し,疲労特性調査とき裂進展挙動の調査を行った.また比較材としてSP処理材も用意し,処理条件の違いによるき裂進展挙動の比較を行ったところ,①いずれのLP処理もSP処理材より疲労寿命の改善効果があること,②HH-LP処理の有効性を確認できたこと③パルス幅の短いDry-LP処理の方が材料表面をより強化可能であることを明らかにできた.この研究成果は,レーザピーニングに関する国際会議「ICLPRP」のほか,疲労研究に関する最大の国際会議「FATIGUE」にて発表を行った. 本年度の研究計画の目的②に関して達成できたことから,「(2)おおむね順調に進展している.」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は,(1)難燃性Mg合金製FSW継手への衝撃波付与による組織変化と疲労特性改善に関して,早期にFSW接合技術の確立を目指す.現在の所属機関では,摩擦攪拌接合に関する研究・加工実績がないため,接合に必要な接合ツールや治具の設計・製作から行い,そのノウハウを蓄積していかなければならない.場合によっては,前所属機関である沖縄高専に出向いて接合を行うか,先方の研究者に依頼をすることも視野に入れて本研究を推し進める. (2)組織変化特性やき裂進展特性におよぼすパルスレーザのパルス幅の影響調査に関して,本年度のアルミニウム合金を対象とした研究から,Dry-LP処理とHH-LP処理による疲労特性,特に疲労き裂進展特性に与える影響が明らかとなったこと,ならびに最表面の組織特性(き裂進展抑制効果)がパルス幅によって異なっていることが示唆された.この研究成果をふまえて,FSW継手が完成すれば,早期に研究協力者と協力してDry-LP処理ならびにHH-LP処理を適用し,同様の研究手法によってその違いを明らかとする.難燃性Mg合金のFSW継手の場合でも,最表面近傍の組織のみがLP処理によって影響を受けることが予想されるので,摩擦攪拌接合により生じる特徴的な内部組織の変化よりも,最表面近傍の組織特性を重点的に調査する予定である.研究成果についても,従来通り積極的に研究発表を行い,Dry-LP処理やHH-LP処理の産業利用促進に向けてアピールしたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
予算を確認しながら使用していたが,最終的に端数が残ってしまった.次年度予算に含めて有効に活用したい.
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