研究課題/領域番号 |
23K04408
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
山本 春也 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 上席研究員 (70354941)
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研究分担者 |
田口 富嗣 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 上席研究員 (50354832)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | イオンビーム / 薄膜形成 / 表面改質 / ポリイミドフィルム / 柱状構造 |
研究実績の概要 |
近年、水素利用の促進に向けて、酸化タングステンやアルミ・鉄合金などで柱状構造を形成した薄膜により光学的な水素検知、水素吸蔵などが実現している。これらの機能性薄膜を大面積で且つ耐熱性に優れたフレキシブルなフィルム基材上に高い密着性で形成できれば利用範囲が飛躍的に拡大できる。本研究では、ポリイミドフィルムに機能性発現のもととなる金属酸化物などのナノ柱状構造の形成と同時に基材との密着性向上のための表面改質手法の開発を目的としている。具体的には、加速したイオン1個の照射によるポリイミド表層の構造変化をナノ柱状構造形成のための足場形成の視点で探索し、多様な環境下でも利用できるフレキシブルな機能性フィルム材料の開発を目指す。本年度は、イオンビーム照射による表面改質層の形成条件を調べることを目的に、断面TEM観察が容易なガラス状炭素を対象にイオンビーム照射を実施した。実験では、Arイオンビームの加速エネルギー(3 keV, 30 keV)、照射量(最大5×1015 ions/cm2)をパラメータに試料を作製し、断面TEM観察により表面近傍の微細構造を評価した。その結果、Arイオン照射によりガラス状炭素の表層は、照射量の増加とともに非晶質および密度が高くなる傾向を示し、表面から20 nm及び40 nmの深さの領域で構造変化が起こることがわかった。今後の研究では、今回の照射条件をもとにポリイミドフィルムに対してArイオンビーム照射を行い、構造評価を進めるとともに、スパッタリング法を用いてナノ柱状構造の薄膜形成を実施して基材との密着性向上を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、導電性を有するためTEM観察が容易になるガラス状炭素を対象にArイオンビーム照射を実施し、ラザフォード後方散乱測定によるAr照射量の評価、TEM観察により表層の微細構造評価などの結果、Arイオンビームの加速エネルギー及び照射量による炭素表面層の構造変化を捉えることができた。これによりポリイミドフィルムへの照射条件が定まった。さらに、イオンスライサーを用いてポリイミドフィルムを加工することにより断面TEM観察が可能であることがわかり、ポリイミドフィルムの表面改質層の微細構造観察に目途がついた。以上から研究は当初の計画どおりに順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、ポリイミドフィルムへのイオンビーム照射を実施し、断面TEM観察により照射領域の構造変化を調べているが、本年度の結果から照射するイオンの種類のよる影響も調べる必要があると考え、Al、Fe、Agなどの金属元素の加速可能なイオン注入装置を用いて照射することを検討する。さらに、スパッタリング法を用いてナノ柱状構造の薄膜形成を実施して基材との密着性向上のための表面改質手法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、ポリイミドフィルムへのイオンビーム照射にはイオン銃を購入して実施する予定であったが、研究所が保有するイオン注入装置を利用することができた。スパッタ成膜装置の維持に必要な真空ポンプの購入を優先させたために次年度使用額が生じた。次年度使用額は、TEM断面試料の加工に関わる消耗品などの購入に使用する。
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