研究課題
本研究では、特にバルク金属ガラスの主成分となる高融点元素を対象とし、その金属液体構造の特徴量を抽出することにより、単体のガラス形成能が著しく低くなる要因を解明することを目的としている。そのため、1500℃を超える液体構造情報のデータベースを構築することを目標とした。特に、液体構造データの取得が従来は困難であった2000℃を超える高融点遷移元素を主な対象とし、無容器浮遊法と放射光X線回折を用いて取得した高精度液体構造データを解析した。今年度は、これまで大型放射光施設SPring-8において取得したTi(1941 K)、V(2183 K)、Fe(1811 K)、Ni(1728 K)、Zr(2128 K)、Pd(1829 K)、Hf(2506 K)およびSi(1685 K)の8元素(括弧内は融点)について、その液体構造を詳細に解析することにより構造解析手法を確立した。本研究で対象とした元素の中で最も融点が高くX線の吸収率も高いHfについては、文献で調べる限り構造因子の実験値が得られていないため、本研究で実施した構造解析が初めての取り組みとなる。取得した液体構造データから3次元原子座標を再現し、幾何学的解析を実施して液相中の空隙分布を可視化することにより、FeやHfなどの遷移元素についてのDense random packingの特徴、Siの疎らな原子配置の特徴をナノスケールで抽出した。これらの結果から、充填率の高い遷移金属液体中にサイズの小さな元素が侵入することによりさらに充填率が高くなり、ガラス形成能が高くなる要因となることを示唆した。さらに、構造データから配置エントロピーを算出することにより、これらのメゾスコピック領域における特徴と巨視的な物性との関連を示した。今後はさらに高融点の元素の液体構造情報を取得してデータを蓄積していく。
2: おおむね順調に進展している
今年度はこれまで取得した構造データを詳細に解析することを中心に進め、共同研究を介して構造解析手法を確立することができており、おおむね研究は順調に進展している。具体的には、逆モンテカルロ法を用いた液体中の3次元原子配置の再現、その原子配置を用いた空隙分布の可視化およびパーシステントホモロジーを用いた解析による位相幾何学的な特徴の抽出を実施した。さらに、液体論を援用して構造データ(二体分布関数)から配置エントロピーを算出することにより、これらのメゾスコピックな領域における特徴とマクロスコピックな物性との関連づけを行った。今年度得られた成果については、国際学会3件および国内学会2件で公表した。
これまで液体構造データを取得できていない高融点元素については、実験室において融解することに成功しているが、放射光実験の実施には至っていない。そのため、次年度において課題申請を実施し、構造データを取得する予定としている。構造データを取得した後の解析手法については、これまでに確立してきたため、迅速な研究の進展が見込まれる。
当初の計画では真空装置を購入のため物品費を使用する予定であったが、申請者が物質・材料研究機構へ1年間の出向となったため、所属の函館工業高等専門学校において実験を進めるための旅費に使用した。しかし、使用予定の旅費よりも若干金額が少なかったために次年度使用額が生じた。したがって、次年度において物品購入品費として使用する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)
The Journal of Physical Chemistry A
巻: 128 ページ: 716~726
10.1021/acs.jpca.3c05561