研究課題/領域番号 |
23K04495
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
酒多 喜久 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (40211263)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 光触媒 / H2O分解反応 / 光触媒活性向上 / 混合酸化物 / 調製条件制御 / 形態制御 / 助触媒 / La2Ti2O7 |
研究実績の概要 |
H2O分解反応に作用する実用光触媒開発の基礎研究を目的として、先行研究のSrTiO3光触媒が実用レベルまで光触媒活性が向上した要件に基づき、これまでH2O分解反応に対する活性の報告があるチタン、タンタル、ニオブ混合酸化物光触媒についてこの反応に対する光触媒活性向上要件の検討を行った。水素生成反応(HER)助触媒について検討したところGa2O3や金属イオンドープSrTiO3光触媒によるH2O分解反応に最も有効に作用できるRhyCr2-yO3が他の助触媒よりも有効であることが判明した。よって、このHER助触媒を用いて研究を遂行した。酸化物光触媒の調製法、調製条件を制御して、それらに基づく結晶の状態とH2O 分解反応に対する光触媒活性の関係を検討したところ、どの酸化物においても粒子径が100~500 nmで数種類の結晶面が露出した形状の独立した結晶粒子が光触媒として高い活性を示すことが判明した。特に、La2Ti2O7について検討した結果、H2O分解反応に対する光触媒活性は錯体重合法を用いて光触媒を調製しNaClを用いてフラックス処理を行うと非常に高い光触媒活性示すことを見出した。さらにこの光触媒に酸素生成反応(OER)助触媒CoOOHを共担持するとHER助触媒の酸化劣化による失活が抑制され、光触媒活性はさらに向上した。この時の光触媒活性は内部照射型石英製反応管を用い450W高圧水銀灯照射下でH2:21 mmol h-1, O2:11 mmol h-1であり、297 nm単色光照射下の見かけの量子効率(AQE)は43%であった。この様に酸化物光触媒において、近年解明された活性向上の知見に基づいた有効な助触媒の担持と調製条件の制御による光触媒結晶粒子の形態の制御でH2O分解反応に対する活性を実用レベルまで向上させることが出来ることを見出し、その時の最適な光触媒の状態を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究の金属イオンドープSrTiO3光触媒のH2O分解反応に対する活性向上要件のうち、有効な水素生成反応(HER)助触媒RhyCr2-yO3の組み合わせ、調製法・調製条件制御による光触媒結晶の形態制御により、これまでこの反応に活性を示す報告がある酸化物光触媒の光触媒活性は非常に向上し、さらに酸素生成反応(OER)助触媒CoOOHを共担持することでHER助触媒の酸化劣化による失活を抑制して光触媒として安定に作用できることを見出した。特に、これまでH2O分解反応に対する活性が低いと報告されてきたKTaO3光触媒で比較的高い光触媒活性を発現させることに成功した。さらに、層状チタン混合酸化物であるLa2Ti2O7においては調製条件とそれに基づく酸化物結晶の物性と助触媒の条件を最適化させることでH2O分解反応に対する見かけの量子効率(AQE)が43 %まで向上させることが出来ることを見出した。これらの成果は、新しい考え方に基づいて酸化物光触媒を調製することでH2O分解反応に対する光触媒活性を実用レベルまで向上させること実証した結果となり、更に金属イオン添加など光触媒のバルクを修飾することでさらに活性を向上できる可能性をしめした。初年度の研究の進捗状況は、今後、本研究課題のH2O分解反応に対して酸化物光触媒の活性向上要因解明とこの光触媒反応に実用レベル高活性を示す酸化物光触媒の調製法を一般化させる次年度以降の目標を目指した研究の遂行に対して十分な成果であり、本研究の初年度の目標は十分に達成された。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究成果に基づいて、今後は次に挙げる項目について検討する予定である ・H2O分解反応に高活性を示す酸化物光触媒の要件の付与法の確立と機構解明 2023年度に引き続きSrTiO3でH2O分解反応に対して光触媒活性が著しく向上した用件に基づいて、各種酸化物光触媒のこの反応に対して活性向上の取り組みとその機構の解明を行う。特に、光触媒バルク内での光照射で生成した電子・正孔の再結合抑制や表面の欠陥が作用する再結合や不安定酸化中間体による助触媒劣化の抑制のための金属イオンの添加効果とその機構解明について検討する。 ・H2O分解反応に高活性を示す酸化物光触媒の調製手法の一般化 酸化物光触媒において、これまで解明されたH2O分解反応に対しての活性向上要因を総合して適用できる光触媒の調製法・調製条件の確立を目指し、光触媒の光吸収が飽和する単色光を照射時にこの反応に対して見かけの量子収率が30%以上を示す一般的な酸化物光触媒の調製法・調製条件の確立を目指す。さらに、窒化物、酸窒化物等の可視光応答性光触媒の新規調製法の検討とH2O分解反応への応用について、これまでアンモニアを用いて酸化物を高温で直接窒化して合成されてきた可視光応答性の酸窒化物光触媒を窒化物と酸化物を原料にした固相法での調製を試み、その光触媒特性を検討する。特に、酸化物光触媒でのH2O分解反応に対する活性向上の取り組み基づき、調製法を改良して、H2O分解反応活性を如何に発現させるか目標として検討し、最終的に太陽光を利用して高効率でH2O分解反応を進行させることが出来る光触媒開発のための基礎的な知見を得ることを目指す。
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