研究課題/領域番号 |
23K04544
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
中村 康一 京都先端科学大学, 工学部, 教授 (20314239)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ナノスケール構造 / 非整数値次元 / 第一原理計算 / 電子構造 |
研究実績の概要 |
2023年度は主に下記の1・2について実施した。 1. 【ナノスケール構造モデルにおける非整数値次元Dの定量的定義】グラフェン、2次元シリコンカーバイド、および4種類(モリブデン、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム)の遷移金属二硫化物についてシンプルな多層構造モデルを導入し、多層構造どうしの層間距離を変化させた場合の非経験的電子状態計算によるバンド構造や状態密度を解析・精査して、それぞれのモデルの非整数値次元Dを定量的に導出した。具体的なDの導出法として、局所的な価電子帯の頂上や伝導帯の谷それぞれについて有限領域積分による状態密度を新たに定義し、その対数と局所的なバンド頂上またはバンド谷を基準としたエネルギーの対数が線形関係を持つことを示して、その傾きがDを含む多項式と一致するとして定義した。導出したDの定量値は局所的なバンド頂上やバンド谷ごとに異なるが、多層構造どうしの層間距離に応じて適正に変化する。研究成果は国際学会で発表した。 2. 【複雑なナノスケール構造モデルの電子状態計算と物性シミュレーション】上記1で取り扱った4種類の遷移金属二硫化物を主軸に、新規材料開発のターゲットとなる複数の種類の遷移金属ダイカルコゲナイドによる多層構造や、インタカレーションを考慮したナノスケール構造のモデルを導入し、これまでに研究室に導入済みのワークステーションを利用して時間依存密度汎関数法も含めた精密な第一原理電子状態計算を実行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでほとんど学術的に議論されていなかった材料モデルにおける非整数値次元の定量的な定義を新たに導入して、1年が終了した段階で次元に対する連続的な材料物性の特徴を明らかにする理論手法の開発に道筋を付けることができた。複雑なナノスケール構造モデルの電子状態計算も平行して進めており、当初に予定したスケジュールに沿った経過状況であることから、本課題がおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度以降は下記の1~3について推進する。 1. 【ナノスケール構造モデルにおける非整数値次元Dの定量的定義】これまでに計算した定量的な非整数値次元と対応する各構造モデルの幾何的特徴の関連性を精査するとともに、人工ニューラルネットワークによる機械学習も利用して記述子としての幾何的特徴と非整数値次元の推量値を結び付ける法則を見出し、非整数値次元を定量的に定義するための数学的手法を確立させる。 2. 【複雑なナノスケール構造モデルの電子状態計算と物性シミュレーション】2023年度に引き続き、遷移金属ダイカルコゲナイドによる多層構造や、インタカレーションを考慮した構造等の複雑なナノスケール構造モデルの精密な第一原理電子状態計算を実行して電子構造の詳細を明らかにするとともに、これまでの研究で開発してきた電気機械特性、熱電変換特性等に関するシミュレーションを実施し、対象構造について定量的な非整数値次元との関連を精査して、非整数値次元に関する連続的な特徴を議論する。 3. 【次元の定量的評価に基づく低計算コスト物性予測手法の開発と機能構造設計】ターゲット材料の部分構造を抽出して比較的小さな格子定数をもつ3次元周期境界疑似モデル構造を導入し、非整数を含む任意の定量的次元における電子構造を探知する。得られた電子構造を用いて材料物性シミュレーションを実行し、予測した材料物性について通常のシミュレーション結果との相違を検証するとともに、次元をパラメータとする材料物性の数式表現を議論して、これを利用した新しい機能構造を設計する手法を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に、複雑なナノスケール構造モデルの第一原理電子状態計算用として大型ワークステーションを導入予定であったが、研究全体のキーポイントである非整数値次元の定量的定義に関する数学的研究に注力し、大型モデルも含めてナノスケール構造モデルの第一原理電子状態計算は研究室既存のワークステーションで実施できたため、2024年度に繰り越す判断をした。2024年度に当初の予定よりハイスペックの大型ワークステーションを導入して、より複雑なナノスケール構造モデルの第一原理電子状態計算に利用する。
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