研究課題/領域番号 |
23K04550
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
城 鮎美 (瀬ノ内鮎美) 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光量子科学研究所 放射光科学研究センター 水素材料科学研究グループ, 主任研究員 (60707446)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 放射光単色Ⅹ線 / 増感剤 / 照射線量 / がん細胞 |
研究実績の概要 |
ナノ粒子にガドリニウムやヨウ素を含ませた薬剤をがん細胞に取り込ませて放射光単色X線を照射すると、がんが非常に効率よく殺傷されることを明らかにした。ところで、マイクロビーム治療ではスリット幅が小さいほど、腫瘍増殖の制御効果が高いことが明らかになっている。本研究ではこれまで効果が認められた放射光単色X線によってがん殺傷効果が増大する薬剤のさらなる殺傷効果の向上を目的とし、マイクロビームと組み合わせた場合のがん殺傷効果について調査を行う。 今年度はOSL線量計を利用し、ヨウ素のK吸収端のエネルギーである33.2keVのときの線量率が0.54 ± 0.03 Gy/minであることを明らかにした。また、全反射ミラーのベンド量を変化させることでビームの集光を試みたところ、半価幅が約0.25 mmの単一ピーク形状まで集光させることができた。これよりも小さいビームを形成する場合は四象限スリットによって切出しを行う、もしくは、KBミラーといった別の光学系素子が必要となることも明らかになった。 細胞への照射については、直径が約0.6 mmのがんスフェロイドに対し、まずはこれまでの実験で用いてきた縦0.5 mm(半価幅0.3 mm)×横2 mmのビーム径による照射を行った。綿密な位置合わせを行ったが、がんスフェロイド自体に確実にX線を照射しているかを確認することが難しく、再現性を得ることができなかった。 そこで次年度は照射対象の見直しを行い、照射対象をビーム幅よりも確実に広いセルカルチャースライドに培養した2次元細胞とすることとした。照射位置の決定にはダミーのセルカルチャースライドを利用し、照射位置と未照射位置についても明確化を行い、それぞれの細胞への影響を調査する。また、がん殺傷効果の検証についても免疫染色を行い、蛍光顕微鏡観察によって定量的な評価を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題においては研究を遂行するため、3つの検討事項を設定した。今年度は検討事項1として設定していた照射線量率の決定を行うことができた。こちらの結果については現在論文を執筆しており、次年度中に投稿する予定である。また、OLS線量計によって決定した照射線量率をイオンチャンバーによるカウント値(フォトンフラックス)と関連付けたことで、イオンチャンバーの値から照射線量を推定することが可能となった。 さらに検討事項3として設定していたがん細胞のDNAダメージの検証について、細胞の免疫染色を行って定量化をはかることになったが、その免疫染色技術についても習得することができた。また、照射対象の細胞についても情報収集を行い、本研究に適した細胞種の選択を行うなど、次年度の実験に向けた準備が着々と進んでおり、以上の状況から鑑みても研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は直径が約0.6 mmのがんスフェロイドへの照射を行ったが、がんスフェロイド自体に確実にX線を照射しているかを確認することが難しく、再現性を得ることができなかった。 そこで次年度は照射対象の見直しを行い、照射対象をビーム幅よりも確実に広いセルカルチャースライドに培養した2次元細胞とすることとした。また、照射位置の決定を確実に行うことで、X線が照射した場所と未照射の場所を明確に分け、それぞれの細胞への影響についても調査を行う。また、変化させるファクターとして(1) トータルの照射線量、(2) 照射後の細胞を固定するまでの時間、(3) 照射するマイクロビーム幅を検討しており、それぞれ決められたプロトコルに従って免疫染色を行い、蛍光顕微鏡観察によって定量的な評価を実施する。実験結果は速やかに論文にまとめ、また、次年度以降は国際学会での発表も視野に入れた状態で研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は国内学会への参加を予定していたが、研究計画等の見直しにより今年度は国内研究会への参加とすることに変更した。そのため、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金は次年度学会へ参加するための旅費とする。
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