研究実績の概要 |
昨年度は、以下に示すように3化合物について重要な知見が得られた。 ・α-Dy2S3:気相化学輸送法による単結晶育成時に用いる輸送剤の量を変化させ、結晶成長時の圧力が磁化容易軸に及ぼす影響について検証したが、輸送剤量による依存性は見られなかった。しかし輸送剤量を従来の1.5倍にすることにより、育成単結晶のサイズアップに成功し、今後の研究遂行の上で非常に有効な知見が得られた。一方で、従来の輸送剤量で同一育成バッチ中に磁化容易軸が異なる単結晶が混在して得られた。この育成期間中に、電気炉のトラブルで2度育成を中断して室温まで冷却した経緯があり、これが影響した可能性を現在検討している。反強磁性転移温度TN2の直上における電気抵抗率異常増減現象と磁化容易軸との関連については、今回の育成単結晶の電気抵抗率が極めて高いことにより、確認できなかった。 ・α-Sm2S3:磁化容易軸の交錯に及ぼすアニール効果について調べた。アニールにより、弱強磁性温度TC1直上における磁化率のピークはa方向、c方向ともに増大したが、磁化容易軸の交換は起こらなかった。また、c-easy試料とa-easy試料の電気抵抗率について直流四端子法を用いて詳細に調べた結果、電気抵抗率の異常増減現象が105という極めて大きいスケールで起こることが明らかになった。さらに室温において、ac面内での電気抵抗率は磁化容易軸の方が困難軸より2桁程度小さいことも明らかとなった。これらの成果に関して、論文投稿の準備中である。 ・α-Ce2S3:これまで存在が知られているα-R2S3 (R = La, Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb, Dy)のうち、R = La, Ceに関しては、粉末試料の合成は多相試料中にできるものの、単結晶化には成功していなかった。今回、育成温度を下げることで単結晶化に成功し、研究の裾野が広がった。
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