研究実績の概要 |
グラフェンやシリセンなどのX-ene(X=C, Si, Geなど)、ビスマス超薄膜、遷移金属カルコゲナイド(TDMC)などの2次元原子層物質では、特異な電子状態の存在が理論的に予測されており、学理を探求する基礎研究からデバイス製作も視野に入れた応用研究まで幅広く研究競争が繰り広げられている。また、TDMCは超伝導や電荷密度波など多彩な電子相転移を起こす興味深い物質でもある。これまでの原子層物質の基礎研究では、電子バンド構造や電気伝導を明らかにすることに主眼が置かれ、伝導電子の散逸チャンネルとして重要となるはずの電子ー格子相互作用については相対的に注目されてこなかった。本研究課題の目的は、こうした物質についてフォノンスペクトルを明らかにすることで、電子ー格子相互作用の知見を深めることである。 2023年度は、上記の2次元原子層物質の中で、TDMCの仲間であるNbSe2に注目し走査トンネル顕微鏡による表面構造の観察を行なった。トンネル探針の位置を試料表面に近づけることで像のコントラストが変化することを見出した。この物質は、Nb原子からなる原子層がSe原子からなる原子層にサンドイッチされた複合層がファンデアワールス相互作用によって積層した2次元性の高い結晶構造をとる。探針ー試料間の距離を変えることで、距離が離れている場合は、最外層であるSe原子由来の局所電子状態からのSTM像への寄与が大きく、距離が近づくとSe原子層の下にあるNb原子層の寄与が大きくなることでコントラストが変化すると考えられる。従来の研究では、表面層のみの情報しか得られていないが、その下の層の構造情報も得られたことはNbSe2の物性を探る上で重要な結果であると思われる。
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