研究実績の概要 |
2023年度は、放射性元素の分離シミュレーション構築のための環境整備を行うとともに、溶媒抽出により得られるユウロピウムの分配比のマスキングの効果を、計算化学シミュレーションにより再現した。 まず、環境整備として高精度相対論効果及び電子相関を考慮可能な計算プログラムの導入を行った。前者では、TURBOMOLE, ADF, DIRACによる二成分相対論を考慮した錯体の密度汎関数計算の実行可能性を確認した。後者では、ORCAによるスカラー相対論レベルでのpost Hartree-Fock計算を検討し、アクチノイドイオンのCASCI及びNEVPT2法について計算可能であることを確認した。さらに、溶媒抽出分離における溶液のシミュレーションをより詳細に検討するため、Quantum Espressoによる第一原理計算やLAMMPSによる分子動力学計算、COSMOconfによる配座探索計算も導入した。 続いて、スカラー相対論レベルの密度汎関数法を用いて、ユウロピウムのEDTA系キレート剤によるマスキング効果について検討した。Eu錯体の錯生成定数予測式を取得し、EDTA, EDTAビスアミド, EDTAテトラアミドの三種類の錯体のモデリングを行い、錯生成定数を予測した。その結果を用いて、化学平衡計算により分配比の抽出剤濃度及びpH依存性をシミュレーションした結果、実験値の傾向を良く再現した。今後は、本手法をアクチノイドや白金族元素に展開して、放射性元素の分離シミュレーション開発を行っていく予定である。
|