研究課題/領域番号 |
23K04660
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長友 重紀 筑波大学, 数理物質系, 講師 (80373190)
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研究分担者 |
庄司 光男 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (00593550)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ヘモグロビン / hinge / βサブユニット / 四次構造変化 / switch |
研究実績の概要 |
本申請課題「ヘモグロビンのhingeとswitch領域構造の形成に関わるα鎖とβ鎖の寄与の検証」は,実験と理論の両方から実施する.しかしながら,課題内容が実験系で達成されなければ理論による裏付けが意味をなさなくなるので,1年目は実験系を中心に実施した.分光実験(紫外共鳴ラマン)より,ヘモグロビンβ鎖への配位子(CO)結合により,hinge領域に存在するトリプトファン(Trp)の強度変化が観測される一方,チロシン(Tyr)の振動には顕著な変化がみられないことがわかっているので,最初にβ鎖への配位子(CO)結合によるswitch, hingeへの構造変化を調べることを行った.αFe3+βFe2+-deoxy(以下ハーフdeoxy形と記す)とαFe3+βFe2+-CO(以下ハーフCO形と記す)の結晶を作成し,結晶構造解析が高分解能(1.4 Å)で達成されたので,原子間距離の詳細な記述が可能になった.switch領域ではヘモグロビンβ鎖への配位子(CO)結合の有る無しにかかわらず水素結合(Tyrα42のフェノールのO原子とAspβ99のカルボキシ基のO間に形成される水素結合)が維持されていたが,ハーフdeoxy形とハーフCO形ではhinge領域のAspα94のカルボキシ基のO原子とTrpβ37のインドール環のN間の原子間距離が0.9 Å伸長していることが明らかになった.これはβ鎖への配位子結合による効果がswitch領域には影響を及ぼさず,hinge領域にのみ”原子間距離の伸長”という形で影響を及ぼしていることが明らかになった.この内容は分光実験とも一致する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題であるヘモグロビンのβ鎖への配位子結合がhinge領域の構造変化を引き起こすかどうかを調べるためにα鎖がFe3+で配位子が結合しない原子価混成ヘモグロビン(αFe3+βFe2+-O2)を調製した.ここに一酸化炭素(CO)を結合させたαFe3+βFe2+-CO(以下ハーフCO形と記す)ヘモグロビンと脱酸素下(窒素雰囲気化)にしてβ鎖から酸素を除去してβ鎖に配位子が結合しないαFe3+βFe2+-deoxy(以下ハーフdeoxy形と記す)ヘモグロビンの結晶を作成し,それぞれ結晶構造解析を行った.その結果,どちらも分解能1.4 Åで構造解析が達成され,ハーフdeoxy形ヘモグロビンからCOがβ鎖に配位したハーフCO形ヘモグロビンで0.9 Åのhinge領域の原子間距離(Aspα94のカルボキシ基のO原子とTrpβ37のインドール環のN)の伸長が明らかになった.これまでに振動分光(紫外共鳴ラマン分光:TyrとTrpの振動スペクトルを得ることができる)においてヘモグロビンのβ鎖への配位子(CO)結合ではTyrには変化がなく,Trpの強度減少のみが観測されることが知られていたが,本結晶構造解析により,β鎖への配位子(CO)結合により引き起こされるヘモグロビン分子の構造変化がhinge領域の原子間距離の伸長にあることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
β鎖への配位子(CO)結合により,ヘモグロビンのhingeを形成するAspα94のカルボキシ基のO原子とTrpβ37のインドール環のNの間の伸長が起こることを結晶構造解析によって明らかになった.β鎖への配位子結合によりβ鎖のFe-His結合がヘム方向へ引き込まれるが,このことによりHisが含まれるβ鎖のF-ヘリックスもまたヘム方向へ引き込まれることによりヘム方向への変位(移動)が起こる.この変位は0.5 Å程度と見積もられるが,この変位がどのようにしてヘモグロビンのhingeを形成するAspα94のカルボキシ基のO原子とTrpβ37のインドール環のNの間の伸長へとつながるのか,その経路を明らかにすることが次の課題となる.科研費の申請書類にも記したが,理論計算により,量子古典混合計算(QM/MM法)あるいは古典分子動力学計算(CMD法)を用いてβ鎖のFe-Hisの動きによるアミノ酸残基の変位(β鎖のF-ヘリックスの変位)を伴うhingeの構造変化のメカニズム(機構)を明らかにすることが次の課題である.理論計算ではQM/MMによりヘム鉄力場を十分に検証し,その後でCMDによる理論解析を進める.この理由は以下に記すように,CMD法では汎用のヘム鉄力場の記述が正確でないため,ヘム鉄力場の十分な検証が必要となる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は以下の通りである. 2023年度に購入を検討していた計算機(MacBookPro)の発売が延期されたため,2024年度に購入する計画に変更した. 今後の使用計画(60万円)は,30万円程度の計算機(MacBookProもしくはWindowsPC)2台を予定している.
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