研究課題/領域番号 |
23K04661
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
近藤 正人 筑波大学, 数理物質系, 助教 (20611221)
|
研究分担者 |
石橋 孝章 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70232337)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 全内部反射ラマン分光 / 固液界面 / 基板支持脂質二分子膜 / 抗菌ペプチド / 振動スペクトル |
研究実績の概要 |
グラミシジンAという抗菌ペプチドを対象に,ペプチドが膜中でとる構造や配向が,膜の流動性によってどのように異なるのかを明らかにする.この目的のために,固体と液体の(固液)界面を利用するという視点から研究する.固液界面の基板支持脂質二分子膜(Supported Lipid Bilayer: SLB)を膜のモデルとして,ここにペプチドを混ぜた試料を準備する.その振動スペクトルを,全内部反射を利用した界面敏感なラマン分光で測定する.ペプチドと脂質の混合SLBの温度を上昇させることで,膜の相をゲル相から流動相に切り替える.この際の振動スペクトル変化から,相の変化に伴うペプチドの構造変化を捉える.膜のモデルとしてSLBを利用することで,配向変化も含めて捉える. 一年目は,稼働中の全内部反射ラマン分光装置の試料部に,温度調整機構を実装する.これにより,混合SLB試料を測定後,試料を装置に保持したまま,脂質膜の相の条件を制御できるように改良することを到達目標とした.装置の試料部には,プリズムが設置されており,その下方にテフロン製のトラフが置かれている.トラフはジュラルミン製のホルダー上に載せており,トラフには純水が満たされている.SLBの試料は,このプリズムと水の界面に準備している.SLBの温度制御のため,ジュラルミン製ホルダーに改良を施し,チラーで温度制御した循環水をフローできるようにした.このホルダーで,テフロントラフ内の水(SLBの下層水)の温度を調整し,SLBの温度を制御した.この温調ホルダーの試験のため,ジミリスチルフォスファチジルコリン(DMPC)というリン脂質のSLBのラマンスペクトルの温度依存性を測定した.DMPCは,24度付近でゲル相と流動相の間での相転移を起こす.20度と30度のスペクトルに明確な違いを検出でき,温調ホルダーが機能していることを確認した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,分光装置の試料部に温度調整機構を実装した.また,その試験として,ジミリスチルフォスファチジルコリン(DMPC)というリン脂質のSLBのラマンスペクトルの温度依存性を測定も実施できている.そのため,一年目の到達目標には達していると判断し,この評価とした.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の二年目の開始後まもなく,研究代表者が研究機関を異動した.当初の計画は,一年目に実装した温度調整機構を用い,グラミシジンAと脂質の混合基板支持脂質二分子膜(混合SLB)のラマンスペクトル測定の試験に進むことであった.だが,異動後の機関には,スペクトル測定のための全内部反射ラマン分光装置が準備できていない.また,混合SLBの試料は,ラングミュアブロジェット・ラングミュアシェーファー(LB/LS)法と呼ばれる手法で準備する予定であったが,これに必要なLB膜作製装置も異動後の機関には設置されていない.そのため,研究計画を大きく変える必要が生じている. 新しい計画では,まず,全内部反射ラマン分光装置を異動後の機関に実装し,課題を進めることができる環境を整える.励起光源と検出器,および必要な光学部品類は概ね所有している.本課題の予算で分光器を購入し,装置を実装する.混合SLBの準備には,LB/LS法でなく,ベシクル融合法と呼ばれる方法を用いるよう計画を変更する.LB装置を購入せずに課題を進めることができるよう工夫する.新しい分光装置の試料部には,膜の準備方法の変更に対応したものを実装する.装置を立ち上げ,ベシクル融合法で準備したリン脂質のSLBのラマンスペクトル測定にまで到達することを目標に研究する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
一年目の計画では,温度調整機構の実装のため,恒温水循環装置(チラー)を購入する予定であった.だが,研究代表者が所属する研究室に,チラーがあったため,試作の温調セルホルダーが機能するかどうかの試験の段階では,それを用いることにした.このチラーは,もともとは別の装置の冷却用のものであったが,この装置が現在使われていなかったため,そのまま本研究課題で使用し続けた.光学部品類の劣化もなかったため,一年目の研究費は年度末近くまでほぼ未使用のままであった.年度末に,研究代表者が研究機関を異動することが決まり,研究計画の変更の必要が生じた.この計画変更に対応するため,未使用額として維持し,次年度使用額となった.異動後の機関に,全内部反射ラマン分光装置を実装するため,分光器の購入に使用予定である.
|