研究実績の概要 |
近年、生体中でのD-アミノ酸の役割が注目されている。ペプチドのD-アミノ酸認識と反応性の関係を検討するため、L-アラニンペプチドとトリプトファン(Trp)エナンチオマーの水素結合クラスターの物性を、極低温イオントラップを用いた紫外光解離分光と気相水分子吸着の実験から検討した。 (1)L-Serを含むトリペプチド(SAA, ASA, AAS)とTrpエナンチオマーの水和クラスターの紫外光励起では、水和したNH2CHCOOH脱離生成物が観測されたが、H+(D-Trp)ASA(H2O)nの場合だけ水和したプロダクトイオンが生成しなかった。 (2)紫外光解離スペクトルのS1-S0遷移(インドール環のππ*状態)を解析した結果、H+(D-Trp)ASAのバンド幅が他の5種, H+(L-Trp)SAA, H+(L-Trp)ASA, H+(L-Trp)AAS, H+(D-Trp)SAA, H+(D-Trp)AAS, に比べてシャープな特徴を示した。 (3)水素結合クラスターの表面物性を評価した結果、H+(D-Trp)ASA表面の親水性が上記5種の水素結合クラスター表面に比べて低かった。 以上の(1)(2)(3)の実験結果より、H+(D-Trp)ASAではTrpのインドール環が水素結合クラスター表面に存在するのに対して、他の5種のクラスターではTrpのアミノ基とカルボキシ基が表面に存在することを明らかにした。
|