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2023 年度 実施状況報告書

炭素系低次元ナノ機能材料の欠陥誘起反応ダイナミクスの解明

研究課題

研究課題/領域番号 23K04679
研究機関奈良女子大学

研究代表者

太田 靖人  奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (30447916)

研究期間 (年度) 2023-04-01 – 2026-03-31
キーワードグラフェン / 転位
研究実績の概要

グラフェンに含まれる安定な欠陥構造の一つに転位(グラフェン格子内で5員環と7員環が接触した局所構造)がある。最近の先行研究で、グラフェンに電子線を照射すると転位周辺で複雑な結合状態が発生し、最終的に6員環のみからなる秩序だった格子構造が再生されることが明らかにされている。しかしながら、結合の組み換えを伴う原子ダイナミクスの詳細については不明な点が多いままとなっていた。そこで本研究では密度汎関数強結合法(DFTB)に基づいた分子動力学計算(DFTB/MD)と第一原理電子状態計算に基づいた結合解析を相補的に行い、グラフェン内の転位のダイナミクスに関する知見を原子レベルで明らかにする試みを行った。最初にDFTB法の力場の信頼性を確認するために約450原子からなる種々の転位モデルにおいて構造最適化計算および反応経路計算を行った。その結果、DFTB計算の結果は第一原理計算の結果と非常によい一致を示し、転位ダイナミクスのシミュレーションに十分適用可能な方法であることを確かめた。次にこのDFTB/MD法を用い、 3000~4000 Kで転位を含んだグラフェンの高温MDシミュレーションを約1 ns実施した。その結果、転位が自発的に消滅する過程を観測することができた。消滅に至る途中で転位周辺のC-C結合の回転が起こりやすい箇所があることを見出した。またC2分子の放出による転位の移動過程も観測された。この過程では、放出前に二つの5員環が接触した局所構造が形成される様子が確認できた。こうした原子ダイナミクスの知見は欠陥をできるだけ少なくする高純度のグラフェン生成あるいは欠陥を積極的に利用した新機能ナノ材料設計につながる研究基盤づくりに大きく貢献するものとなっている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の計画通り、密度汎関数強結合法(DFTB)で得られる力場を第一原理計算で得られたものと比較することにより、その信頼性を確認することができた。原子数が450程度に達する複数のモデルを扱っているため、第一原理電子状態計算に1年近く時間を割くことになった。幸い、DFTB計算で得られる力場は第一原理電子状態計算で得られるものと良好な一致を示したため、スムーズにDFTB/MD法のシミュレーションを実行することができた。MDシミュレーションも1 nsに及ぶトラジェクトリーを得るのにかなりの時間を要した。3500 Kでの高温MDシミュレーションでは転位が非常に安定な欠陥であることを反映して、あまり大きな構造変化を示すことがなく、転位が完全に消滅にいたるようなトラジェクトリーは得られなかった。一方、4000 Kでの高温MDシミュレーションでは転位が完全に消滅するトラジェクトリーがいくつか得られ、実験で観測されている現象を捉えることができている。

今後の研究の推進方策

電子状態計算で得られた波動関数のデータを用いて、グラフェン内部の転位周辺の結合状態が転位を含んでいない場合に比べてどのように異なるのか詳しく調べる。特にグラフェン内に二つの転位が一定の距離だけ隔てられて存在している(転位双極子を形成している)場合、両転位で挟まれた領域には特異的な結合状態を示す場合があることを自身の先行研究で示している。したがって、今後の方策としては、二つの転位の相対的な位置によって、結合状態がどのように変化するのかを局所的な原子配置や軌道相互作用の解析等を通じて明らかにする。
また分子動力学シミュレーションのデータについては、転位が完全に消滅したトラジェクトリーに焦点を絞り、転位が消滅する過程に見られる特有の局所的な構造変化や反応の特徴などを明らかにする。これらの解析により、グラフェン内の転位の高温ダイナミクスに関する統一的な知見の収集を目指す。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額は459円と少額であり、ほぼ計画通りに予算を使いきることができている。

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公開日: 2024-12-25  

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