研究実績の概要 |
本年度は、Alをドープしたシリカ(Al-doped SiO2)を対象に、湿潤大気下でその表面に吸着した水の構造解析を行った。なお、Al-doped SiO2はスパッタリングにより薄膜として準備することで、アモルファス状態を保ったまま任意濃度のAlドープを達成した。構造解析には、非接触かつ真空を必要とせずに計測が可能な、表面選択的振動分光法であるヘテロダイン検出振動和周波発生分光法を利用した。 Al濃度0, 6, 13, 25, 50, 75 atom%のAl-doped SiO2に対して、相対湿度5, 20, 50, 80%の条件で計測を行ったところ、Al濃度6-13 atom%において他のAl濃度では見られない特徴的な振動バンドが見出された。各スペクトルには多数の振動バンドが重畳しており、この特徴的な振動バンドの正確な形をつかむこと、またそれに基づく吸着水構造を提案することは困難であったが、計24のスペクトルに対して特異値分解解析を行ったところ、このバンドは3600から3000 cm-1以下の低端数領域までブロードに広がっていることが示唆された。このブロードなバンド形状は、水が単なる水素結合ではなく静電相互作用によって基板に吸着していることを示唆している。我々はこのバンドが低Al濃度でのみ現れることから、SiとAlのナノドメイン境界がSi4+→Al3+の交換によって局所的に負に帯電し、吸着水はこの負電荷周りに優先的に吸着するものと考察した。 以上の考察については他の手法により更なる検証が必要と思われる。しかし本結果は、カチオンがドープされたシリケートガラス表面における吸着水構造が、単に純物質極限(SiO2やAl2O3)におけるそれらの混合では説明できないことを明瞭に示しており、純粋なシリカだけでなく種々のシリケートガラスそのものを計測することの重要性を表す好例と考える。
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