研究課題/領域番号 |
23K04692
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
上田 顕 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (20589585)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 中性ラジカル固体 / 置換基効果 / 結晶構造 / バンド構造 / 電気伝導性 |
研究実績の概要 |
「純有機中性ラジカル固体のバンド充填率の変調と新奇電子相の開拓」を目指して、本年度は、申請者が最近開発に成功した、部分酸化状態を有する双性イオン型純有機中性ラジカル [(PDT-TTF-Cat)2B] の末端置換基(PDT基)を変更した類縁体の合成に取り組んだ。種々の置換基を検討した結果、環状構造を有するPDT基を鎖状構造のMT基に置き換えた中性ラジカル [(BMT-TTF-Cat)2B] の合成、単結晶化に成功し、置換基の変更が結晶構造や電子構造、電気伝導性、磁気的性質に及ぼす効果について興味深い知見を得ることができた。 特筆すべきこととして、今回合成に成功した [(BMT-TTF-Cat)2B] は、母物質 [(PDT-TTF-Cat)2B] とは大きく異なる電荷分布・酸化状態を有しており、置換基の変更によって電子状態・バンド充填率の変調が可能であることが明らかとなった。具体的には、母物質では、分子内の2個のTTF骨格が等しく+0.5価に酸化されていたのに対し、今回開発した物質では、ほぼ+1価のTTF骨格とほぼ0価(中性)のTTF骨格が存在し、すなわち分子内で電荷が大きく不均化していることが分かった。さらに分子間では、ほぼ+1価の骨格同士、ほぼ中性の骨格同士でそれぞれface-to-face型に近接しており、結晶全体では、バンド絶縁体のような電子構造を有していることが示唆された。その一方で、その電気伝導性は従来のバンド絶縁体に比べ顕著に高く、この双性イオン型純有機中性ラジカルが従来の系とは本質的に異なる構造的・電子的特性を秘めている可能性が期待される。今後、第一原理的なバンド計算を行い、バンド充填率や電子構造の詳細な調査・考察を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規物質の開発に成功し、その結晶構造解析ならびに電気抵抗、磁化率測定により、本研究の目的である「純有機中性ラジカル固体のバンド充填率の変調と新奇電子相の開拓」についての重要な知見を得ることができたから。
|
今後の研究の推進方策 |
上述したように、本年度合成に成功した新規物質について、第一原理的なバンド計算を行い、バンド充填率や電子構造について詳細に調査・考察し、実験から得られた電気伝導性、磁気的性質との相関を明らかにする。これと並行して、新たな類縁体の設計・合成も行っていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究に取り組む予定であった学生が留学(語学留学)のため2023年度1年間休学することとなったことから、予算の使用計画の見直しが必要となり、次年度使用額が生じた。当該学生は2024年4月から研究室に復帰しており、見直しを行った予算使用計画の下、本研究を推進していく。
|