研究課題/領域番号 |
23K04703
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 泰蔵 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00618978)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 気水界面 / 単分子膜 / ビナフチル分子 / 第二高調波発生 / キラル分子 |
研究実績の概要 |
申請者はLangmuir-Blodgett (LB) システムを用いることで、マクロなバリアの圧縮・拡張動作により、気水界面上で分子配向や分子コンフォメーションを制御してきた。力学的刺激はありふれた外部刺激であるが、分子に対する応答性は十分に解明されていない。そこで、気水界面における脂質単分子膜への力学適刺激応答性を「その場」観察するために、第二次高調波発生 (second harmonic generation, SHG) を用いた。指標分子として、気水界面において力学適刺激により分子配向やコンフォメーションが変化する両親媒性ビナフチル分子を用いた。ビナフチル分子は、気水界面上で親水性部位を水相に向くように分子が配向しており、ナフチル部位が電気双極子として働くため SHG 活性が期待される。また、ビナフチル分子はキラリティを有している。つまり、SHGの直線偏光依存性から分子配向、円偏光依存性からキラリティ変化をその場観察できると考えられる。 申請者は、SHG 分光測定器とLBシステムを組合せ、気水界面に展開した分子を圧縮・拡張しながら SHG シグナルの直線・円偏光角度依存性を観察できる光学系を設計した。ビナフチル分子を気水界面上に展開し圧縮しながら 800 ナノメートルのレーザーを照射すると、その半分の波長にあたる 400 ナノメートルの SHG シグナルを検出できた。つまり、ビナフチル分子が SHG 活性であることが示された。また、分子コンフォメーション変化に伴って入射光の直線偏光性が変化することが確認された。一方で、円偏光依存性は確認されなかった。つまり、ビナフチル分子の SHG は、ビナフチル分子のキラル構造ではなく、ナフタレン分子の配向に由来することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
気水界面上の分子を圧縮しながら SHG シグナルを検出できる光学系を確立できた。それにより、ビナフチル分子が SHG 活性を示し、また SHG シグナルが分子キラリティではなく分子コンフォメーションに由来することを確認された。これにより、ビナフチル分子が気水界面における力学適刺激応答性を SHG を用いてその場観察する指標分子として機能することが示された。 脂質膜中に同分子を展開し、脂質膜の力学適刺激応答性を SHG 分光測定を行う予定であった。しかしながら、申請者が東京大学物性研究所から京都大学化学研究所に異動となり研究環境が大きく変化した。これにより、物性研究所で行っていた SHG 測定を継続することが難しい状況となった。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】に記載したとおり、東京大学物性研究所から京都大学化学研究所に異動したことで、ビナフチル分子を指標として気水界面における脂質膜の力学適刺激応答性を SHG 分光測定により評価することが困難となった。 そこで、今後は気水界面上におけるビナフチル分子や、その転写膜のの赤外分光測定を中心に行っていく。SHG 分光測定と赤外分光測定との結果を比較し、双方の分光法においてビナフチル分子が気水界面における力学適刺激応答性の指標分子として扱えるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者が東京大学物性研究所から京都大学化学研究所へ異動となり、申請で予定していた実験の継続が困難になったため。 今後は気水界面や転写膜の赤外反射吸収分光を実施するため Langmuir-Blodgett システム用の冷却器や測定用基板の購入を予定している。
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