研究課題/領域番号 |
23K04705
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松下 未知雄 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (80295477)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 有機導電体 / 分子結晶 / 分子集積回路 / 抵抗変化 / 可塑性 |
研究実績の概要 |
本研究においては、有機導電体であるシクロファン型ドナー分子のイオンラジカル結晶が170K以下の低温相において示す、直交した2つの結晶軸の一方に大電流を印加することで電流を印加した軸の抵抗が減少してもう一方の抵抗が上昇する現象について、その抵抗変化のメカニズムを解明するとともに、その知見をもとに、この機能を効果的に発現させうる手法や、同様の機能をもつ物質系を開拓することを目的とする。 令和5年度には、電流印加に伴う抵抗変化の前後におけるX線結晶構造解析と電子スピン共鳴の測定を行い、その結果、抵抗の変化の大きさに対する結晶ドメイン方向の比率の変化が極めて小さいことを見出した。この結果は、電流の印加に伴う抵抗の変化が、主に電流が集中すると考えられる2種類の結晶ドメイン境界のボトルネック領域において生じるとする構造モデルで理解できる。 また、電流印加に伴う抵抗変化について、実験におけるパラメーターを系統的に変えて詳細な検討を行った。その結果、直交する方向の抵抗の変化率を互いに直交した軸でプロットすると、いずれも第二象限と第四象限に現れ、2つの軸の抵抗に負の相関があることが明瞭となった。このようなプロットを、印加電流の密度、電流印加サイクルの回数、電流印加から抵抗測定までに待ち時間を変化させて検討した結果、電流印加サイクルの数を増やす場合の効果が最も大きいことが分かった。結晶ドメイン境界でのジュール加熱と冷却が繰り返されることで、低温相から高温相への局所的な変化と徐冷による低温相への再変化が効果的に行われることを示唆している。 以上、この系における抵抗変化のメカニズムと、その効果的な発現方法に関する有用な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的としていた、電流印加による直交方向の抵抗スイッチング現象について、X線結晶構造解析および電子スピン共鳴の手法により、そのメカニズムを推定できる結果が得られた。 また、電流印加の際のパラメーターに対する抵抗変化と結晶軸間の相関について検討を行い、電流印加のサイクルを繰り返すことが最も効果的との結果が得られた。 概ね当初の計画の通りである。
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今後の研究の推進方策 |
電流の印加により直交する軸方向の抵抗が変化する系について、シクロファン型ドナー分子のイオンラジカル結晶だけでなく、同様な性質を示す系の探索を進める。 シクロファン型ドナー分子の結晶においては170K以下の低温相で、一定の温度を保って実験を行う必要があるが、昨今のヘリウム価格の高騰により、温度を精密に維持するためのクライオスタットの利用が制限される状況にあるため、室温で同様な性質を示す系を探索するとともに、これまでに確立した方法を用いて評価を行う。 探索の対象としては、シクロファン型ドナーの系において結晶内に取り込まれる結晶溶媒やカウンターイオンを変えることで相転移温度の変化を検討するほか、導電性ポリマーやカーボンナノチューブ、およびそれらを含んだ複合素材などについても同様の手法での検討を行う。
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