研究実績の概要 |
箱型分子であるキュバンが完全にフッ素化された全フッ素化キュバンは,箱の内部にC-F結合のσ*軌道が集合して低エネルギー準位のLUMOを形成し,電子受容性を示すと予測されていた。研究代表者は科研費(若手研究)課題において全フッ素化キュバンを初めて合成し,電子受容性の証明およびラジカルアニオン種の観測に成功した(Science, 2022)。この分子について,内部の軌道を介した電子伝導が可能であるかと考え,本研究では,全フッ素化キュバンの内部空間を利用した電子伝導の実現を目指すこととした。具体的には,全フッ素化キュバンの単分子伝導度を測定することで,電子伝導の可否を調べ,その伝導機構を明らかにすることを目指している。 当該年度は,走査型トンネル顕微鏡―ブレークジャンクション(STM-BJ)法を用いて全フッ素化キュバンの単分子電子伝導度の計測を試みた。STM-BJ法による計測のためには,金属基盤および金属短針と対象分子が結合を形成する必要がある。まずは,全フッ素化キュバンに結合部位を導入した1,4-ジシアノ-2,3,5,6,7,8-ヘキサフルオロキュバンを合成した。対象分子として,フッ素化されていない1,4-ジシアノキュバンも合わせて合成した。これらの分子についてSTM-BJ法により電子伝導度を測定したところ,フッ素化されている分子の伝導度はフッ素化されていない分子に比べて1桁高い伝導度を示すことが分かった。
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