研究課題/領域番号 |
23K04711
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
矢野 将文 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (10330177)
|
研究分担者 |
柏木 行康 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 主任研究員 (30416333)
光藤 耕一 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 准教授 (40379714)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 有機合成化学 / 機能性有機材料 / トリアリールアミン / 近赤外線吸収色素 / ラジカルカチオン / オリゴチオフェン / 溶解度向上 |
研究実績の概要 |
本研究では,TPAのラジカルカチオンの吸収特性に着目し,アリール置換基を持つ新規TPA材料(以下, Ar3-TPA)を系統的に設計・合成し,中性およびラジカルカチオン状態で十分な溶解性・安定性を保持しつつ興味深い光学的・電気化学的物性を示すAr3-TPAの分子設計方針の解明を目指す.本研究を通してアリール置換基の効果的導入によって創り出されるTPAラジカルカチオンの新たな性質を明らかにし, 現在, 実現が困難な2000 nmよりも長い極大吸収波長を持つ新奇な近赤外線吸収材料に展開を目指す.今年度はチエノチオフェン骨格を持つAr3-TPA誘導体の詳細な検討を行った。その結果、 長鎖アルキル基であるn-ヘキシル基の導入によって(1)溶解度の向上および(2)ラジカルカチオンの近赤外線領域の吸収の長波長シフトの両方に効果的であることがわかった。この結果はDyes Pigm.に掲載された。この結果を受けて、ビチオフェン骨格をもつAr3-TPAの検討に着手した。前駆体は根岸カップリングを用いて中程度の収率で合成した。前述の研究で得た知見を盛り込んで、ヘキシルビチオフェンを持ったAr3-TPAも設計・合成した。これらについて溶解度、電気化学的、分光学的検討を行った。ビチオフェン誘導体についても長鎖アルキル基の導入は効果的であり、ヘキシルビチオフェン誘導体では、種々の有機溶媒に対して1.0wt%以上の溶解度を示した。さらに対応するラジカルカチオンは1613nmに吸収極大を示した。これは、我々のTPAを用いた開殻系アプローチによる近赤外線吸収色素の設計方針が、より長波長吸収を持つ色素の開発にも有効であることを示している。現在、このビチオフェン誘導体の物性をまとめ、論文投稿する準備を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オリゴチオフェンの1つであるチエノチオフェンを用いて1400nmを超える極大吸収を実現できたことは大きな成果である。さらに長鎖アルキル基の導入によって、(1)溶解度の向上および(2)ラジカルカチオンの近赤外線領域の吸収の長波長シフトの両方に寄与することを見出した。この知見は、より実用的な近赤外線吸収材料の分子設計指針の確立に大きく寄与する。当初の予定通り、今年度に種々のビチオフェンを有する化合物を合成できた。グラムスケールでの合成にも適用できることがわかった。今後、これらの基礎物性を検討し、さらにターチオフェン誘導体への展開も目指す。
|
今後の研究の推進方策 |
補助事業期間内に目的を達成するために、令和6年度は合成の容易さ、溶解度、酸化還元電位、ラジカルカチオンの安定性を念頭に置き、候補となる分子の設計を行う、令和5年度はこれまでに検討してきたチエノチオフェン誘導体の物性を詳細に検討した。レビューワーとのやり取りの過程で、近赤外線領域に吸収を示す化合物は疑いなくラジカルカチオンであることを証明するデータの集め方を確立した、この知見を活用し、令和6年度はビチオフェン誘導体の設計・合成・物性測定に取り組む
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は数種の誘導体の合成経路の開発を予定していたが、令和5年度はチエノチオフェン誘導体の合成経路の確立に注力した。そのため、他の誘導体の合成試薬購入に充てる予算の執行を行わなかった。この令和5年度の研究を通して、より長波長領域に吸収を持つ化学種を評価するための研究方針、研究体制が確立できた。令和5年度に使用しなかった予算および令和6年度の配分の一部は、令和5年度に予定していた誘導体の合成経路の検討および今年度に合成した化合物の性質を明らかにするための消耗品購入に用いる。
|