研究実績の概要 |
外部刺激や外部環境に応答する強発光性蛍光物質の開発を目指して研究を行い、以下の成果を得た。 (1) 4位と5位をメチレン鎖で架橋したピレノファン((4,5)ピレノファン)を合成した。立体配座はピレン同士が離れたアンチ体に大きく片寄っており、蛍光スペクトルではピレンのモノマー発光のみを示した。その9,10位にクラウンエーテル部位を導入し、溶液に過塩素酸バリウムを添加したところ、蛍光極大が長波長シフトした。架橋鎖としてオリゴエチレングリコール鎖を用いて三量体を合成したところ、その蛍光スペクトルではモノマー発光とともに447nmを極大とする分子内エキシマー発光が観測された。その溶液に過塩素酸ナトリウムを添加すると、分子内エキシマ―発光の強度が大きく減少した。これは、ナトリウムイオンを捕捉することでエキシマー形成が阻害されたためであると考えられる。 (2) フェナントレンと12, 15, 18員環のベンゾクラウンエーテルをアルキンで連結した分子を合成した。そのアセトニトリル溶液にMg2+, Pb2+, Ba2+イオンを添加すると、蛍光強度の減少および短波長化が顕著に見られた。金属イオン非存在下ではICT(分子内電荷移動)による吸収および蛍光の長波長シフトが観測されるのに対し、金属イオンを加えるとその正電荷によってICTが発生せず、吸収および蛍光が短波長シフトするとともに、分子内電子移動により蛍光強度が減少するものと考えられる。 (3) ピレン環を2本のアルキル鎖でカプセル化した化合物群を合成したところ、無置換のピレンに比べて溶液中の蛍光量子収率が増大し、固体蛍光が短波長シフトすることが分かった。これは、カプセル化により凝集が抑制され、近傍分子への励起エネルギー移動が起こりにくくなっているためであると考えられる。
|