研究課題/領域番号 |
23K04732
|
研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
刈込 道徳 宇都宮大学, 工学部, 准教授 (00224709)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | ヘテロ環 / 転位反応 / キノン誘導体 / スピロ誘導体 / ピリダジン / ジアザヘリセン / 配座異性体 / キロプティカル |
研究実績の概要 |
種々の置換基を有する4個のベンゼン環が縮環したフェノール誘導体(2-ヒドロキシベンゾ[c]フェナントレン誘導体)の酸化的カップリング反応によって、相当するらせん型のキノン誘導体を合成した。これらを種々の溶液中で加熱することで、ラクトン環とシクロペンタジエン環からなるスピロ化合物(以下スピロ誘導体と呼ぶ)および、オキセピン環とフラン環が縮環した誘導体(以下オキセピン誘導体と呼ぶ)、ピラノン環とシクロペンタジエン環が縮環した誘導体(以下ピラノン誘導体と呼ぶ)の3種類のヘテロ環化合物を合成した。これらはいずれも含酸素ヘテロ環誘導体であり、キノン誘導体の転位反応によりこれらのヘテロ環を合成することが出来た。スピロ誘導体は直交するベンゼン環の縮環部位の配向が異なる配座異性体の平衡混合物として得られた。この様な配座異性体は非常に珍しく、置換基の種類、溶媒、温度によってこれらの平衡がどの様な影響を受けるかを明らかにした。また、導入した置換基の位置によって、オキセピン誘導体またはピラノン誘導体が生成せず、スピロ誘導体を選択的に生成することが明らかになった。具体的には、2-ヒドロキシベンゾ[c]フェナントレンの3位にメチル基を導入した誘導体では少量のオキセピン誘導体が得られたが、t-ブチル基やフェニル基を導入した誘導体ではスピロ誘導体のみが得られた。また、3位および4位に置換基を導入したものでもスピロ誘導体が選択的に得られた。 一方、キノン誘導体とヒドラジンとの反応では還元反応が進行して、縮環フェノール誘導体の二量体が主生成物として得られたが、ヒドラジンが縮合してピリダジン環を形成した副生成物が得られた。この化合物は新規なジアザ[9]ヘリセン誘導体である。これをP体 とM体の両鏡像異性体に光学分割し、旋光度と円二色性スペクトルの測定によってそれらのキロプティカルな性質を明らかにした
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幾つかの置換基を導入したベンゾ[c]フェナントレン誘導体の酸化的カップリング反応によってキノン誘導体を合成し、それらの転位反応によって含酸素ヘテロ環化合物である、スピロ誘導体、オキセピン誘導体、ピラノン誘導体を合成することができた。また、酸化的カップリング反応の基質である2-ヒドロキシベンゾ[c]フェナントレンの3位および4位にメチル基、エチル基、t-ブチル基、フェニル基、臭素などの置換基を導入することによってこれらの転位反応における選択性に関する知見を明らかにすることが出来た。具体的には3位への置換基導入によってスピロ誘導体の選択的合成が可能となる事を明らかにした。また、生成したスピロ誘導体には縮環ベンゼン部位の配向が異なる配座異性体が存在することを明らかにした。一般的な配座異性体はsp3炭素の単結合の回転に伴って生じるが、この化合物の場合には縮環ベンゼン部位の配向が異なる事によって生じる極めて珍しい配座異性体が溶液中で平衡状態にある事を明らかにした。そこで、置換基の種類、溶媒、温度などの条件を検討することで、この様な平衡反応の詳細を明らかにすることが出来た。一方、キノン誘導体とヒドラジンの反応において、これまで還元反応によって、縮環フェノール二量体の合成を行っていたが、還元生成物の他に、予想していない副生成物として、ピリダジン環の形成による新規なジアザ[9]ヘリセン誘導体の生成を見出すことが出来た。
|
今後の研究の推進方策 |
縮環フェノール誘導体である2-ヒドロキシベンゾ[c]フェノール誘導体の3位および4位以外の位置に置換基を導入した誘導体によるキノン誘導体の合成を行い、その転位反応による含酸素ヘテロ環化合物の合成反応の詳細を明らかにする。また、キノン誘導体からの転位生成物である、スピロ誘導体およびオキセピン誘導体からのさらなる転位反応によってピラノン誘導体の生成反応が進行する可能性が示唆されたため、これらの詳細を明らかにする。 さらに二つのベンゼン環が縮環した[6]ヘリセン誘導体などの縮環数が異なる誘導体についても酸化的カップリング反応によるキノン誘導体の合成およびその転位反応についても検討し、より高次な含酸素ヘテロ環化合物の合成反応の達成を目指す。 キノン誘導体とヒドラジンの反応によるジアザ[9]ヘリセンの合成における反応条件を再検討することで、これまでの副生成物から収率を向上させ、主生成物として得られる様にする。また。種々の置換基が導入された、ジアザ[9]ヘリセン誘導体および縮環数の異なる骨格を有するジアザ[n]ヘリセン誘導体の合成が可能かどうかについても検討する。
|