研究課題/領域番号 |
23K04740
|
研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
上野 聡 東京工科大学, 工学部, 准教授 (50514139)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | ルテニウム触媒 / ケトン / アルケニル求電子剤 / クロスカップリング / 有機ホウ素化合物 / ピリジン配向基 / 炭素ー窒素結合切断 |
研究実績の概要 |
本研究ではケトンをアルケニル求電子剤として利用する反応の開発を行なった。ケトンは、炭素求核剤の攻撃を受け、アルコールを与える。また、アルコールは脱水条件でアルケンに変換される。この2段階の反応でケトンからアルケンを合成できる。しかし、アルコールの脱水には、濃硫酸などの強酸性条件を必要とする。また、ケトンは、Tf2Oによりアルケニルトリフラートに変換してカップリング反応に利用される。この反応でも、アルケニルトリフラートの単離を必要とする。今回我々は、ケトンとアミンから系中で容易に生じるエナミンのアルケニル炭素ー窒素結合がルテニウムに酸化的付加することで、ケトンを直接アルケニル求電子剤として利用する反応を開発した。 この反応について、さまざまな遷移金属触媒やアミン、溶媒について検討した。その結果、遷移金属触媒としてルテニウム、アミンとしてピロリジン、溶媒としてキシレンが最適条件であることがわかった。また、この反応を円滑に進行させるためには、適切な配向基を近傍に位置させることが必要であった。アミン添加剤として、さまざまなアミンの検討を行なった。ピロリジンに骨格が近いイソインドリンでも良い結果を示すこともあった。配向基としてさまざまなsp2窒素やsp2酸素をもつものを合成して検討した。その結果、ピリジン配向基が最適であることがわかった。また、ピリジン配位子のピリジン環上にさまざまな置換基をもちいて検討した。その結果、ピリジンの3位に置換基をもつ配向基がより効果的であった。 さらに、カップリングパートナーである有機ホウ素化合物についてもさまざまな検討をおこなった。電子供与基や電子吸引基をもつフェニルホウ素化合物や、2-ナフタレンやパラフェニルフェニル基などの導入も可能であった。一方で、アルケニルボロン酸エステルやアルキルボロン酸エステルをもちいることはできなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、収率の向上が問題となっていた。今回、さまざまな触媒や配位子、溶媒、添加剤の検討を行うことで、収率を向上させることに成功し、そのために鍵となる要因が明らかとなった。これらの結果は、学会発表や論文投稿などを行なっており、順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
上述のように今回目的の反応を進行させることに成功した。今後の課題としては、アミン添加剤を過剰量用いる必要があることから、この添加量を減らすことが必要である。さらに、配向基としてピリジル基が必要であることから、ピリジン以外に分子変換可能な配向基でも進行するように工夫したり、配向基を用いなくても反応が進行するような工夫をしていくことが必要である。 具体的には、配向基として、ピリジン以外に、アミドやケトン、アルデヒド、オキサゾリン、イミダゾールなどで検討していく。また、本来この反応では、アミンは触媒量でも十分であると考えられるが、実際には触媒的には機能しない。そのため、反応機構を解明するためのより詳細な実験を行い、これらの問題を解決していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今回、反応効率を向上させるためにさまざまな実験を行ったが、その研究の進め方を工夫したことで、当初の想定よりも研究が順調に進んだことが主な理由である。当初購入を予定していたリサイクル分取GPCではなく、GCオートサンプラーを購入することで、条件検討が順調に進んだ。また、目的生成物の単精製にはリサイクル分取GPCがあることで研究はさらに進むため、次年度への繰越金は、今年度購入予定だったリサイクル分取GPCの購入に充てる。
|