研究課題/領域番号 |
23K04742
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
葛西 祐介 徳島文理大学, 薬学部, 講師 (50379286)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 液相ペプチド合成 / 疎水性長鎖アルキル保護基 / N-アシルスルホンアミド / 不斉識別基 / 新モッシャー法 / N-アルキル化反応 / N-スルホニルカルバマート / クロロギ酸エステル |
研究実績の概要 |
我々の目指す実践的液相ペプチド合成法の開発に向けて、以下の課題の克服を目指した検討を行った。 ペプチド連結反応におけるラセミ化の有無を簡便に確認するため、ラセミ化によって生成するジアステレオマーの存在を1H NMRスペクトルで検出可能な不斉識別基の開発を行った。安価に入手可能な(S)-インドリン-2-カルボン酸に芳香環を連結したキラルカルボン酸を設計し、L-およびD-体のアミノ酸と縮合して得られるアミドは、ジアステレオマー間の1H NMR化学シフトが大きく異なることを見出した。さらに、新モッシャー法による第一級アミンの絶対配置決定にも適用可能であり、その化学シフト値差は従来の不斉識別試薬よりも大きいことを見出した。 N-アシルスルホンアミドを用いたペプチド合成法において、合成したペプチド部分を迅速に切り出す方法の開発は課題の1つである。我々は疎水性長鎖アルキル基の回収・再利用を実現するために必要なN-アシルスルホンアミド構築法を検討する中で、クロロギ酸メチルがN-スルホニルカルバマートの窒素原子を迅速かつ高収率でメチル化することを見出した。クロロギ酸エステルをN-アルキル化試薬として用いた例はほとんど無く、またN-アルキル化はペプチド切り出しの迅速化に必須であるため、クロロギ酸エステルのN-アルキル化剤としての有用性について研究を行った。その結果、N-スルホニルカルバマートのN-アルキル化では、クロロギ酸エステルのアルコール部分の構造に依存して、その反応性が大きく異なることがわかった。すなわち、N-メチル化やエチル化、アリル化、ベンジル化については迅速に進行し、対応するハロゲン化アルキルを用いた場合よりも迅速に反応が進行することを見出した。一方で、N-アシルスルホンアミドのN-アルキル化はほとんど進行せず、複雑な副生物を与えることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペプチド合成法の開発に向けて明らかにすべき課題の1つである、ペプチド連結反応におけるラセミ化の有無について明らかにした。N-アシルスルホンアミドの置換反応によるペプチド連結反応は合成の最終段階における疎水性保護基の脱保護やペプチド同士の連結反応に利用可能であり、ペプチド合成法の確立に向けて重要な知見である。関連して、従来の試薬よりもより不斉識別能の優れたキラルカルボン酸の開発にも成功した。 一方で、N-アシルスルホンアミドの活性化(N-アルキル化)と続く置換反応には長時間を要することが知られており、解決すべき課題の1つである。我々は本研究課題に取り組む中で偶然、新しいN-アルキル化法を発見した。すなわち、N-スルホニルカルバマートに対してクロロギ酸メチルがアルキル化剤として働き、N-アルキル化が迅速かつ高収率で進行することを見出した。この反応の適用範囲を検討した結果、N-アシルスルホンアミドのN-アルキル化には適用が困難であることがわかり、置換反応の改善には至らなかった。 以上、本年度では最低限度の結果は得られたと考えており、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
液相ペプチド合成における「簡便精製法」の確立:逆相シリカゲルを利用した「機械的」な精製方法の確立を目指す。操作の迅速化、および使用する逆相シリカゲルや溶媒量の最適条件を提示する。 N-アシルスルホンアミド基の変換反応の迅速化:昨年度開発した不斉識別基を利用し、ラセミ化を伴わない反応条件の構築を目指す。 疎水性長鎖アルキル保護基の回収・再利用サイクルの実現:疎水性長鎖アルキル基は、液相ペプチド合成終了後の脱保護によって、スルホンアミドととして回収される。従って再利用に向けて、スルホンアミドとアミノ酸を連結する迅速かつ温和な反応条件を確立する。 以上の課題の解決した後、実践例として環状ペプチドの効率的な合成法を行い、中分子創薬への適用へと展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用学が生じた理由は、実験に携わる共同研究者の人員不足と実験量不足のため、消耗品にそれほど経費を必要としなかったためである。 次年度は研究に携わる人員を増やすことと、実験を円滑に進めるためのガラス器具等の消耗品の充実を図るために経費を使用する計画である。
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