研究実績の概要 |
まず、弱磁場非極低温条件において、種々の多核金属錯体の磁気解析を実施し、従来の諸近似方法が有効であることを再確認した。[ここで、従来の諸近似方法には、磁場の級数展開近似と、弱磁場でのみ有効な線形近似が含まれる。] またその中で、スピン四重項T項を基底状態とする正八面体型コバルト(II)錯体の一次元鎖状錯体の磁気解析などを実施し[New J. Chem., 2023, 47, 20426-20434]、単独では安定でないカルボキシラト二架橋錯体が配位高分子中で安定化された一連の化合物(金属=コバルト(II)、ニッケル(II)、マンガン(II))について、構造磁気相関(二面角と相互作用の関係)を解明した[CrystEngComm, 2023, 25, 6777-6785など]。 その一方で、強磁場極低温条件にも適用できる磁気解析法を構築するため、従来の諸近似を用いない磁性理論式を導出し、磁気異方性の角度依存性を検討した。 もっとも象徴的な業績は、スピン三重項状態の零磁場分裂による磁気異方性を諸近似を用いることなく代数的に表現したことである。[ここで、従来の諸近似方法を用いないことで極低温での磁気挙動や高磁場での磁気挙動を取り扱うことができるようになる。]導出した理論式を用いることで、磁化の角度依存性をシミュレーションし、磁化の異方性を三次元的に表現することが可能となった[Magnetochemistry, 2024, 10(5), 32]。このような諸近似を使わず磁気異方性を表現する取り組みは、近年の磁性理論の守備範囲増加(極低温測定ならびに高磁場測定)に対応するものであり、当初の計画に先行して実施する必要があった。
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