研究課題/領域番号 |
23K04763
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
滝沢 進也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (40571055)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | イリジウム錯体 / 光増感剤 / イオンペア / エネルギー移動 / 水素結合 / 静電相互作用 / 溶媒効果 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、アニオン性Ir錯体とカチオン性Ir錯体のそれぞれの特長を兼ね備えた可視光吸収型イオンペアを光触媒的CO2還元の光増感剤として応用することを着想した。以前実施した基盤研究(C)では、イオンペアの光増感剤としての性能が、カチオンまたはアニオン性錯体を単独で用いた場合よりも格段に向上することを見出し、アニオン性錯体からカチオン性錯体への励起エネルギー移動が重要な役割を果たしていることを明らかにしている。しかし、希薄に溶解しているイオンペアは、一般的に極性溶媒中で解離してしまうため、適用できる反応条件に大きな制限がある。本研究では、静電相互作用に新たに水素結合を協働的に作用させることで、極性溶媒中でも解離せずに優れた光増感機能を発揮する強固なイオンペアを創成することを目的としている。 令和5年度は、分子設計の自由度を予め上げておくために、これまでのカチオン性Ir錯体をRuトリスビピリジル錯体に変更したイオンペアを新たに設計・合成した。Ru錯体の電荷は2であるため、このイオンペアは2つのアニオン性Ir錯体と1つのカチオン性Ru錯体によって構成される。すなわち、2つのアニオン性Ir錯体によって可視光が吸収され、中心のRu錯体部位に励起エネルギーとして捕集されることが期待される。NMR測定によって目的のイオンペアが得られていることを確認し、発光スペクトル、発光量子収率、発光寿命などの光物性を測定した。得られたデータの解析から、極性溶媒であるDMSO中では溶媒和による解離で光励起状態における相互作用が起こりにくいが、クロロホルム中ではそれらが静電相互作用で近接し、期待する励起エネルギー移動が起こることが分かった。まだ予備的な結果ではあるが、新規Ir-Ruイオンペアは水中で形成する人工脂質二分子膜に導入することが可能であり、光触媒的CO2還元反応の光増感剤として機能した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イオンペアリングにおいてIr錯体同士ではない組み合わせも検討し、水素結合能を付与するための候補分子を増やすことができた実績と、イオンペア法の一般性を実証できた点は今後研究を進展させる上で重要である。合成や物性評価に関しても、計画していた方法を大きく改良することなく進めることができた。これらの点を踏まえて、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、実際に水素結合能を付与したイオンペアの合成に積極的に取り組む。そのために、オロテートを補助配位子とするアニオン性Ir錯体との水素結合が期待されるジイミン配位子を合成する。次いで、対応するカチオン性Ir錯体および前述のRu錯体へ適用する。配位子の候補としては、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール、ピリジルアミノ部位を有する2,2’-ビピリジルを考えている。その後、それぞれのイオンペアを合成し、アセトニトリルのような極性溶媒中でもアニオンとカチオン性錯体が解離せずにイオンペア状態を保つことができるかどうかをNMRや発光測定によって検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度の余剰金はごくわずかであり、ほぼ予定通りに助成金を使用した。
|