研究課題
本研究では、スピンクロスオーバー(SCO)現象を示す鉄(II)qsal系錯体に対して、種々の置換基導入や、新たな配位子設計を行い、それらの構造と磁性を明らかにすることにより、ハロゲン置換HqsalX系で見られた遅い磁気転移現象を示す原因を明らかにすることを目的としている。これまでの検討で、HqsalX系では、Xが6FでFe(II)、及びXが6ClでFe(III)の場合に遅い磁気転移が観測されることが明らかになっている。この遅い磁気転移というのは、通常のSCOとよく似ているが、HSからLSへの転移がおそく、磁気測定時の温度走査速度が遅い場合にのみ観測される現象のことであり、温度走査速度が早い場合には、HSのままでSCOが起こっていないと勘違いしてしまうものであり、光励起の磁気転移現象(LIESST)と同様に温度励起の磁気転移現象(TIESST)とも呼ばれる現象である。令和5年度はこの現象が、配位子HqsalXのみによるものか、あるいは類似の配位子系においても観測されるものかを明らかにする目的で、Hqsal系と類似の配位構造を有しながら、周辺部位の異なるHqapXやHqanなどの新たな配位子系を設計し、この系の鉄(II)錯体におけるSCO現象の有無を検討した。その結果、HqapX系においては、X=Fでは400 K以下でLS、X=Clでは転移温度が約390K、X=Brでは約380Kで緩やかなSCO現象を起こすことが明らかになった。一方、Hqan系においては、qan-1及び、qan-3でLSを示したが、qan-2では、203 K及び230 Kに転移温度を有する二段階の急峻なSCOが観測された。この場合ヒステリシスは観測されていない。今後はこれらの構造を明らかにすると共に、遅い磁気転移現象が起こるかどうかについても検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
Hqsal系とは異なる周辺部位を有する新規な配位子系HqapXを設計し、それらの鉄(II)錯体においてもSCO現象を示すことを明らかにした。鉄(II)qsal系錯体における遅い磁気転移現象を示す原因を明らかにする上で、類似の配位構造を有する錯体系におけるSCO現象の結果は重要である。よって、本研究は概ね計画通り順調に推移していると言える。
SCO現象を示す鉄(II)qap系錯体に対して、種々の置換基導入を行い、それらの構造と磁性を明らかにすることにより、遅い磁気転移現象を示す原因を明らかにすることにつなげる予定である。
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Dalton Transactions
巻: 53 ページ: 1445-1448
10.1039/d3dt03125j
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