研究課題/領域番号 |
23K04774
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
志賀 拓也 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00375411)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 磁気熱量効果 / 圧力熱量効果 / 単結晶X線構造解析 / 磁性 / 異種金属多核錯体 / 鉄錯体 / 強磁性的相互作用 / スピンクロスオーバー |
研究実績の概要 |
本研究では、低温域において磁気熱量効果を、高温域において圧力熱量効果をもちいることで、分子スピンに基づく熱量効果を示す材料の開発を行った。低温域においては、強磁性的相互作用を示す3d-4f多核錯体をもちい、水素液化に応用可能な分子性磁気熱量効果材料の合成を行った。また、高温域においては、柔軟なアルキル基をもつスピンクロスオーバー鉄(II)錯体をもちい、室温付近で駆動する圧力熱量効果材料の合成を行った。 磁気熱量効果材料に関しては、具体的には、平面性の高い多座配位子をもちいて、直線5核構造を持つM3Gd2錯体(M = Cu, Ni, Co)を得た。単結晶X線構造解析によって分子構造を決定し、3d金属イオンと4f金属イオンが交互に配列していることがわかった。磁気測定の結果、金属イオン間に強磁性的相互作用が働くことが明らかとなった。最大磁気エントロピー変化-ΔSMは10kOeにおいて、-ΔSM = 6.4 J kg-1 K-1 (M = Cu)、-ΔSM = 6.4 J kg-1 K-1 (M = Ni)、-ΔSM = 6.9 J kg-1 K-1 (M = Co) と見積もられた。これらの値は、これまでに報告されている既知の多核錯体(10~30核錯体など)と比較して、核数が少ないにもかかわらず同程度の値を持つことが明らかとなった。また、圧力熱量効果材料に関しては、4本のアルキル基をもつ3座配位子をもちいて、新規鉄単核錯体を得た。単結晶は室温以上に加熱を行うと、色変化することからスピンクロスオーバー挙動が起こることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁気冷凍材料に関しては、新規錯体の構造・磁性に関する知見が得られたため、おおむね順調に研究が進んでいると考えられる。これまでに、新しい非対称多座配位子を合成し、錯形成反応を行った結果、新規直線5核錯体を得ることに成功し、分子構造を決定することができた。この錯体は、異種金属イオンが交互に配列した構造を持つことが明らかとなった。磁気測定の結果、分子内の金属イオン間に強磁性的相互作用が働いていることが明らかとなり、磁気エントロピー変化はより多核の既知の化合物と同程度の大きさを持つことが明らかとなった。 圧力熱量効果材料に関しては、アルキル基をもつスピンクロスオーバー錯体の合成を進めており、アルキル基を8本もつ単核鉄(II)錯体の合成に成功している。室温以上での色変化が観測sれたことからスピンクロスオーバーを示すことが示唆されている。スピン転移温度が高すぎる可能性もあるため、対イオンや溶媒の変更を行っているが、新しい化合物を得ることに成功しているため、順調に研究が進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得られた錯体の分子構造および磁気的性質をもとに、新しい錯体分子の合成と熱量効果材料としての評価を行う。磁気冷凍材料に関しては、より大きな基底スピン多重度をもつ分子を設計・合成する。特に、水素液化温度で大きな磁気エントロピー変化を示す分子を開発するために、集積する金属イオンの数や、磁気的相互作用の強さ等を最適化する。また、圧力熱量効果材料に関しては、アルキル鎖の数や方向が異なる鉄スピンクロスオーバー錯体の合成を行い、分子構造の決定および圧力下の磁化率測定等を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた消耗品費を別予算から支出したため、次年度以降の消耗品費として使用する予定に変更したため、次年度使用額が生じた。
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