研究課題/領域番号 |
23K04799
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研究機関 | 沼津工業高等専門学校 |
研究代表者 |
藁科 知之 沼津工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (70390458)
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研究分担者 |
大沼 清 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (50396834)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 近赤外吸収 / d8遷移金属-芳香族1,2-ジアミン錯体 / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
芳香族1,2-ジアミン配位子をもつ近赤外吸収平面型d8遷移金属(ニッケルNi,パラジウムPd,白金Pt)錯体の,光線力学療法における光増感色素への応用の可能性を探る.本研究では,芳香族1,2-ジアミン配位子上に種々の置換基をもつ金属錯体を合成し,その光吸収特性,光照射時の応答特性を含む活性酸素(一重項酸素および過酸化水素)発生能,細胞毒性・光毒性を明らかにすることを目的とする. 今年度は,①新規Pt錯体の合成及び精製方法,②水溶性NiおよびPd錯体の合成及び光吸収特性,③各種非水溶性Pt錯体への近赤外LED光源照射時の応答特性および一重項酸素発生能, ④各種水溶性錯体の過酸化水素発生能,⑤HeLa細胞に対するメチレンブルーの細胞毒性および光毒性に関する調査を行った. ①では置換基にシアノ基をもつPt錯体について良溶媒としてDMFを用いて溶媒濃縮法および混合溶媒法から単結晶を得ることができた.また,各種Pt錯体の精製方法として適用可能であることを見出した.②では配位子上の置換基としてカルボキシ基およびスルホ基をもつ水溶性NiおよびPd錯体を合成しpH条件を変えながら水溶液中での光吸収特性を調べた.Ni錯体はpHに依存するものの総じて水溶液中では時間経過に伴い解離が進むことが示唆された.③では大方の非水溶性Pt錯体に対して近赤外LED照射時に顕著な一重項酸素の発生は認められなかった.一方で未精製のあるPt錯体からの一重項酸素の発生が認められたため,副生成物による可能性が高いことが示唆された.④では過酸化水素発生について,水溶性Ni錯体からは認められない一方で,水溶性PdおよびPt錯体からの発生が認められ,Pd錯体の方が比較的発生能が高く,配位子上の置換基の種類によっても発生能が異なることが明らかとなった.⑤ではHeLa細胞に対するメチレンブルーによる光毒性が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標であった,非水溶性Pt錯体の精製および結晶化,水溶性金属錯体(NiおよびPd)の合成,LED光源による近赤外光照射時の非水溶性Pt錯体からの一重項酸素発生能の調査,水溶性金属錯体からの過酸化水素発生能の調査,はほぼ達成できた. 一方で,これら金属錯体の,特に水溶性錯体の合成に予想以上の時間がかかってしまったため,生細胞に対する細胞毒性及び光毒性試験が実施できなかった.
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今後の研究の推進方策 |
金属錯体の生細胞への適用を考えているため,水溶液中で解離する可能性が高い水溶性Ni錯体については一旦ここで調査終了とし,今後はPdおよびPt錯体について重点的に各種調査を行う予定である.水溶性Pd錯体の水溶液中での挙動に不明な点が多いため,各種Pd金属錯体の電気化学特性および分光電気化学特性を明らかにする.また,生細胞(候補としてはHeLa細胞)に対する水溶性PdおよびPt錯体の細胞毒性および光毒性を明らかにする. 課題としては,非水溶性金属錯体からの過酸化水素発生能の調査(非水溶媒中での過酸化水素定量法が現時点で見当たらない),光照射時に一重項酸素発生能を示した未精製Pt錯体に含まれる未知物質の解明が挙げられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
設備備品費として,研究代表者と研究分担者の双方の研究機関にて光応答特性を調査するために、各々使用する高出力近赤外LED光源(計2台)を今年度中に購入することを予定していたが,光照射時に,特に近赤外光に対して特異的に近赤外吸収金属錯体から活性酸素が発生するかどうか確証が得られるまでは購入は見送ることにした.次年度以降研究期間内に,設備備品費として使用予定である.
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