研究課題/領域番号 |
23K04812
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
朝日 透 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80222595)
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研究分担者 |
中川 鉄馬 早稲田大学, 総合研究機構, 主任研究員 (20822480)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | サリドマイド / 結晶育成 / 昇華 / キラル反転 |
研究実績の概要 |
固体状態におけるサリドマイドのキラリティに着目し、「固体状態のまま」サリドマイドの物理化学的性質を詳細に調べることは、キラル反転・加水分解をはじめとするサリドマイドの薬物動態を明らかにし、サリドマイドをより一層安全に使用するために必要不可欠である。最近、我々は、昇華法により、光学測定に適した高い透明性・均一性を示す板状のサリドマイドの超薄結晶を育成できることを見い出している。しかし、融点より十分に低い温度で結晶を昇華させた場合、S体の粉末からはS体のキラル結晶が、R体の粉末からはR体のキラル結晶が育成されると予想されるが、実証されていなかった。2023年度は、育成した結晶のキラリティ及びその結晶中の鏡像体過剰率 (e.e.) をキラルカラムを用いた液体クロマトグラフィー (HPLC) による分析により算出した。また、昇華法で育成したサリドマイド単結晶のX線構造解析を行うことにより、それらの絶対構造 (キラリティ) を決定した。 融点以下の温度で昇華成長させたTD結晶のe.e.の値は、原料粉末のそれよりも低かった。これは、融点温度以下であっても、昇華中にTD分子のキラル反転が起こる可能性を示唆している。また、このキラル反転は、スーパードライルームのような極端に低い湿度下では起こらなかった。以上より、大気中の水蒸気を含む気相中でTDのキラル反転が起こることが明らかとなった。本結果は、キラルな薬物を精製する際に昇華を利用し、サリドマイド薬害のような悲劇を回避する上で極めて重要な知見である。これらの成果は、「Chiral Inversion of Thalidomide During Crystal Growth by Sublimation」というタイトルの論文として、Crystal Growth and Designに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目に計画していた「サリドマイドの単結晶の育成」に関する検討が順調に進み、昇華法が溶媒蒸発法と比較してサリドマイドの結晶成長に有益であることを実証できたため。「Chiral Inversion of Thalidomide During Crystal Growth by Sublimation」というタイトルの論文として、成果をCrystal Growth and Designに掲載させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、サリドマイドの単結晶を昇華法により育成し、育成した超薄キラル結晶を光学顕微鏡・偏光顕微鏡・レーザー顕微鏡を用いて観察することにより、結晶のoptical nature (光学的進相軸・遅相軸の方向と結晶軸の方向との関係) や厚さを決定する。また、それらのキラル光学的性質をG-HAUPにより測定する。測定したキラル光学的性質につき、それぞれの試料のスペクトルを比較することにより、サリドマイドの固体状態における安定性、反応性 (キラル反転・加水分解) などの物理化学的特性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目に計画していた「サリドマイドの単結晶の育成」に関する検討が順調に進み、27円の余剰が生じたため、次年度に繰り越すことにした。
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