研究課題/領域番号 |
23K04829
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
岡林 識起 関西学院大学, 生命環境学部, 講師 (40737227)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 造影剤 / HPLC / ガドリニウム / ICP-MS / 河川水 |
研究実績の概要 |
河川水中のGd化学形態の分析には,高速液体クロマトグラフィーによる化合物の分離と誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)によるGdの高感度検出の組み合わせ(HPLC-ICP-MS)が広く用いられている。しかし,化合物の分離度が不十分であったり,溶離液に有機溶媒を用いるためICP-MSでの測定時に酸素ガスの添加が必要であるといった問題点があった。本研究では,これまでに,AQカラムを用いた新たなHPLC-ICP-MS法を検討し,5種のGd造影剤を分離・検出することを可能とした。本研究で用いたAQカラムはC18逆相カラムであるが,一般的なC18カラムと比較してGd造影剤のような極性化合物を保持しやすいという特徴を持つ。また,化合物の分離のための溶離液に有機溶媒を必要としないため,ICP-MSでの測定時に酸素ガスの添加を必要としない。この手法を用いて,日本で使用されている5種のGd造影剤(Gd-DTPA, Gd-DTPA-BMA, Gd-BT-DO3A, Gd-DOTA, Gd-HP-DO3A)の分離・検出を20分という短時間で行うことが可能となった。 また,淀川水系(宇治川,桂川,木津川,淀川,安威川)に面する下水処理場の排水をサンプリングし,その希土類元素濃度をICP-MSを用いて測定した。今回測定した7か所全ての下水処理場排水から正のGd存在度異常が見られたことから,下水処理場排水から河川へと人為起源Gdが流入していることが明らかとなった。一部の下水処理場排水からはCeの正の存在度異常も見られた。 HPLC-ICP-MS法により下水処理場排水の分析を行ったところ,少なくとも2種のGd造影剤が検出された。これにより,河川水中のGd存在度異常の原因の少なくとも一部をGd造影剤が担っていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たなHPLC-ICP-MS法を検討した。これにより,日本で使用されている5種のGd造影剤の迅速な分離・検出が可能となった。また,本手法は溶離液に有機溶媒を含んでおらず,分析の高感度化につながった。 実際に下水処理場排水の分析を行い,人為起源Gdが下水処理場から河川へと流入していることを明らかにした。また,ICP-MSによる分析により,人為起源Gdの濃度を定量的に知ることができた。さらに,HPLC-ICP-MSによりGd造影剤が含まれていることを明らかにした。 以上のことより,本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って研究をすすめる。引き続き,複数の河川でサンプリングを行う。河川水のサンプリングは,下水処理場排水の流入地点,及びその上流と下流の数か所で行う。ICP-MSを用いて、サンプリングした河川水のGd濃度を測定する。また、Gd以外の希土類元素についてもその濃度分析を行い、下水処理場から河川へと流入している人為起源Gdの量を算出する。また,HPLC-ICP-MSを用いて河川水試料に含まれるGd造影剤の濃度を測定するとともに,Gd造影剤とは異なる化学形態を持った化合物のGd濃度を算出する。さらに,銅(Cu)や亜鉛(Zn)といった錯生成しやすい金属元素とGd造影剤の金属交換反応によるGd造影剤の分解の可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の物品の価格が計画時より変更となったため次年度使用額が生じた。次年度の消耗品の購入に充てる。
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