研究実績の概要 |
本研究では微生物が生産するカチオン性高分子であるε-ポリ-L-リジン(ε-PL)とカルボニル化合物の反応を基軸とした「ε-PL修飾技術の確立」、および得られた「修飾ε-PL由来の機能材料の創出」を目指す。 本年度は基盤技術となる「ε-PL修飾技術の確立」に向けた検討として、ε-PLと各種カルボニル化合物の反応性評価および得られた修飾体の基礎的な特性評価を進めた。アルデヒド類を主とする十数種類のカルボニル化合物とε-PLの反応性を種々の条件で評価したところ、多くのカルボニル化合物が室温下でも効率良くε-PLと反応することが確認できた。 得られた化合物を回収して乾燥させたところ、その外観はゲル状固体と脆い固体の二種類に大別された。用いたカルボニル化合物の化学構造を考慮すると、前者はε-PLのアミノ基とカルボニル化合物が反応した後に転移反応が生じて架橋が起こった、すなわちメイラード反応を介して架橋された化合物、後者はイミン結合の形成で反応が止まった化合物と考えられる。既報[K.Ushimaru, et.al., ACS omega, 4, 9756-9762 (2019)]にて報告している通り、前者のゲル状固体はε-PLをエラストマー様の材料として利用する上では有用だが、メイラード反応は複雑かつ制御困難な転移反応から成る反応であるため、ε-PLを狙った構造に修飾するという点では不適であった。一方で、後者のイミン結合で反応が止まったε-PL由来化合物は化学構造の制御がしやすく、ε-PL修飾の前駆体として適すると考えている。
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