研究実績の概要 |
熱活性化遅延蛍光(TADF)や有機半導体レーザーといった新技術を実用化するためには、高効率であるだけでなく高い耐久性を示すことが極めて重要であり、有機デバイスの素子劣化のメカニズムを明らかにしながら、具体的な分子構造へとフィードバックすることが求められている。この際に、分子の励起状態やポーラロン状態などがどのように劣化を引き起こすか、また、励起子過程のどの段階が劣化経路に強く結びついているかといった基礎的知見は、今後の分子設計において極めて重要となる。 R5年度の研究において、発光材料の構造や励起状態が安定性に及ぼす影響について研究を実施した。具体的には、複数のドナーが密集したマルチドナー型TADFが高い安定性を示すと期待し、新規化合物を合成するとともに、シングルドナー型TADF分子との比較を行った。分子の励起状態エネルギーやTADFの効率を同等に揃えることで構造と安定性の相関を適切に比較した。その結果、同じドナー基をもつ場合、マルチドナー型分子の方が高い安定性を示すこと、特定のドナー基がラジカルアニオン状態で低い安定性を示すことを明らかとした(Sci. Rep. 2023, 13, 7644)。また、結晶材料を使うことでこれまで不可能であった励起状態ダイナミクスの比較検討を行った。TADFにおける主要過程である逆交換交差(RISC)を高速化することで劣化を抑制できると考えられているが、RISCを向上させるためには分子構造や分子間相互作用などを変える必要があり、RISCの大小のみの影響を直接比較することはできなかった。しかし、同一の材料を同じ相互作用をもつ結晶状態で、ゲスト分子の有無によって励起子過程を制御することに成功した。その結果、RISCのわずかな向上は耐久性向上に寄与しないことが明らかとなった(J. Phys. Chem. Lett. 2023, 14, 5221)。
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