研究課題/領域番号 |
23K04896
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研究機関 | 静岡理工科大学 |
研究代表者 |
佃 諭志 静岡理工科大学, 理工学部, 准教授 (00451633)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 量子ドット / 混晶 |
研究実績の概要 |
混晶量子ドットは量子サイズ効果と混晶組成の組み合わせで光学ギャップを精密に制御できるが、これまでその粒子内の組成分布にまで踏み込んだ合成法や物性制御に関しての研究例は少ない。ホットソープ法などの溶液法により合成されるコロイダル量子ドットは、核生成から成長過程を経て粒子が形成されるため、原子が核から外側に向かって順次配置されていく。二元系の場合とは異なり、混晶量子ドットでは、2種のアニオンもしくはカチオンを含むため、供給される原子の割合によって平均的な組成が変わるだけでなく、その空間分布も大きく変わることが予測される。そこで、本研究では、原料の反応速度から反応中間体濃度を決定し、複数のカチオンもしくはアニオン原子の供給量の時間変化を追跡することで、粒子内での組成分布を制御する術を確立し、それによって創出される新たな機能性量子ドット材料を創製する研究である。本年度は、Cd(Se, S)のアニオン混晶と(Cd,Zn)Seカチオン混晶量子ドットの合成における原料の反応性を検討した。Cd(Se, S)系においては、Cd原料に対するSe原料の反応性が、S原料よりも高くCdSeが優先的に析出することが明らかとなった。この反応性の差を利用することで、ワンバッチにおいてCdSe/CdSコアシェル量子ドットを合成することに成功した。また、(Cd,Zn)Seのカチオン混晶量子ドットの合成では、原料の配位子の組み合わせの検討を行い、配位子組み合わせにより、原料同士の反応速度を調整し、生成する量子ドットの組成を制御することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
混晶量子ドットの合成における粒子内での組成分布を制御する因子を探索するため、Cd(Se, S)のアニオン混晶と(Cd,Zn)Seカチオン混晶量子ドットの合成における原料の反応性を検討した。Cd(Se, S)量子ドットの合成においては、酢酸亜鉛原料とトリオクチルホスフィンSe(TOP-Se)とTOP-Sを用いて合成した結果、S原料の反応性に対して、Se原料の反応性が高いため、反応の初期において、CdとSeが優先的に反応し、CdSe量子ドットが形成され、遅れてCdSシェルが成長することが判明した。このCd原料に対するTOP-SeとTOP-Sへの反応性の差を利用し、原料溶液中のSeとSのモル比を調整することで、ワンバッチの合成で生成するコアシェル量子ドットのシェルの厚さを制御することができ、Se:Se=1:30のモル比では、巨大CdSシェルを有するCdSe/CdSコアシェル量子ドットの合成に成功した。 また、(Cd,Zn)Seカチオン混晶量子ドットでは、生成する量子ドットの組成に対するカチオン原料とアニオン原料の反応性について検討した。カチオン原料の検討では、Se原料に対するCd原料の反応性が、Zn原料より極めて高く、CdSeが優先的に析出するため、混晶化は起きず、CdSe量子ドットが生成した。そこで、アニオン原料に注目し、TOP-Seから配位子をジフェニルホスフィン(DPP)に変えたDPP-SeをSe原料に用いて合成を行った結果、(Cd,Zn)Se混晶量子ドットが生成した。この結果より、Se原料の反応性を高めることでCdとZnのSeに対する反応性をバランスし、(Cd,Zn)Se混晶量子ドットが生成することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に(Cd,Zn)Se混晶量子ドットの合成において、Se原料としてDPP-Seを用いることで、CdとZnとの反応性をバランスすることが判明したので、DPP-Seを用いた場合で原料溶液中でのCdとZnのモル比、及び反応時間によって生成する混晶量子ドットの組成を定量し、原料の反応性と生成する混晶量子ドット内での組成分布について検討を行う。量子ドットの平均組成は、ICP-AES、XRDから決定し、経時サンプリングした量子ドットの粒子サイズの増加に伴う平均組成の差分を取ることでも結晶成長時における二種カチオンの供給量を定量する。原料溶液中でのCdとZnのモル比の変更した各条件での評価を行い、原料の反応性と時間毎に量子ドットに取り込まれる各カチオン量を対比させ、両者の相関関係を明らかにする。 また、複数含まれるカチオンもしくはアニオンの原料の反応性の差だけではなく、対となるアニオン、カチオン原料の反応性も生成する量子ドットの組成に影響することが判明している。そこで、これまで検討をしていない、Zn(Te,Se), Zn(Te, S), Zn(Se, S)混晶量子ドットの組み合わせでも原料の反応性について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
投稿論文の査読が期間内に終了しなかったことと、年度内でのTEMの測定が間に合わなかったため、次年度に経費を繰り越すことになった。論文の査読が終了した後、掲載費を支出し、またTEMの測定も次年度に行う。
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