研究実績の概要 |
コチレニンAは、Cladosporium属の糸状菌から単離、構造決定されたジテルペン配糖体で、ヒト急性白血病細胞HL-60に対する分化誘導活性を有し、さらに、コチレニンAとインターフェロンαとの併用で、卵巣がん細胞を移植したマウスの60%以上が完全に治癒したうえ、副作用は観察されなかった。コチレニンAは、細胞内のシグナル伝達に関与していると考えられ、疾病解明のためのツールになることが期待されている。コチレニンAは、新規抗がん剤リード化合物および生化学研究用ツールとして需要が高まる一方、生産菌の変異により、現在は培養による供給が困難である。そのため、合成化学的手法による供給が切望されているが、高度に歪んだ5-8-5員環を有する母骨格および複雑な糖部位は合成の難易度が非常に高い。 コチレニンAの合成において最も困難と考えられる八員環部位の構築を、モデル化合物を用いて検討した。手法として、3環性骨格に含まれる2つの五員環を調製後、これらの連結と続く閉環反応で八員環を構築することとした。ヨードアルケンをリチオ化後、A環部に見立てた市販のシクロペンテノンに1,4-付加させたのち、生じたエノラートをC環部骨格を有するシクロペンテンアルデヒドに付加させる3成分連結反応で、β-ヒドロキシケトンを得た。この段階で、生成物の立体化学は決定していない。次に、得られたβ-ヒドロキシケトンを脱水したところ、望む立体化学を有するE-アルケンを合成することができた。
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