研究課題/領域番号 |
23K04986
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 彩子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (90633686)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | アセチルCoA合成酵素 / 転写制御 / Thermus thermophilus / 酢酸応答 |
研究実績の概要 |
研究対象としている高度好熱菌には4つのアセチルCoA合成酵素(ACS)ホモログ遺伝子が存在し、そのうちの一つは転写因子ドメインとの融合タンパク質(ACS2)である。これまでの解析からacs2遺伝子が酢酸資化に必須であることや、ACS2が直接的または間接的にアセチルCoA合成酵素遺伝子(acs1)発現を酢酸に応答して調節することが示唆されている。 acs1とacs2の遺伝子間領域へのACS2の転写因子ドメインの結合について、ゲルシフトアッセイにより調べたところ、DNAとタンパク質複合体の形成によるバンドシフトが観察された。ACS2が酢酸に応答してacs1遺伝子発現を調節している可能性があることから、酢酸の有無により転写因子ドメインとDNAとの親和性が変化するかも調査したが、顕著な違いは見られなかった。これはACS2の酵素としての機能は示さないACSドメインがリガンド結合ドメインとして機能してDNAへの結合能を調節していることを暗に示唆している。また、ACS2の転写因子ドメインおよびACSドメインの各ドメインをコードする遺伝子を欠失した部分破壊株を作製し、酢酸を単一炭素源とする培地にて生育を調べたところ、転写因子ドメインの欠損株だけでなくACSドメインの破壊株も生育を示さなかった。このことから、これら両ドメインがACS2の機能に必要であることが示唆され、この結果もACS2のACSドメインがリガンド結合ドメインとして機能することを支持するものであった。以上より、ACS2の転写因子としての機能へのACSドメインの関与が示唆され、今後はエフェクターの同定やエフェクターの有無による転写発現調節機構にフォーカスして研究を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ACS2の転写因子ドメインとacs1-acs2遺伝子間領域を含むDNAとの直接的な結合をゲルシフトアッセイにて検出することができ、ACS2がacs1遺伝子発現調節に直接的に関与する可能性を見出せた。また、ACS2の転写因子ドメインだけでなく、酵素としての機能は示さないACSドメインが、その酢酸資化能に必須であることを遺伝子破壊実験から示すことができ、ACSドメインがACS2の機能を調節するリガンド結合ドメインとして働くことが支持された。
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今後の研究の推進方策 |
ACS2のACSドメインがリガンド結合ドメインとして機能し、何らかのエフェクター分子の結合に応答してACS2とDNAとの結合親和性を変化させることが示唆された。これまではACS2の転写因子ドメインを用いてゲルシフトアッセイを行ってきたが、全長のACS2を用いたゲルシフトアッセイを推定エフェクター分子の存在下、非存在下で行うことで、ACS2のDNA結合について解析を行うことでエフェクター分子の同定を行う。さらに、in vitro転写アッセイを組み合わせることでACS2によるacs1遺伝子発現調節機構を明らかにする。 また、ACS2の転写因子ドメインと同じファミリーに属し、単独でゲノム上にコードされている転写因子IclRについても、これまでにその破壊株および過剰発現株の作製が完了しているため、生育やacsホモログ遺伝子の発現調節への関わりを調べることで、本菌における酢酸応答機構解明の足掛かりとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、転写因子との融合タンパク質であるACS2をはじめとするACSホモログタンパク質について結晶構造解析を行う予定でいたが、ACS2転写因子ドメインとDNAとの結合アッセイなどを中心に実験を進めたため、結晶構造解析関連試薬に使う予定であった予算を利用しなかった。次年度以降のタンパク質-DNA結合アッセイや転写解析における試薬類の購入や、外部への遺伝子発現解析の委託等に活用する予定である。
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