研究課題/領域番号 |
23K04997
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
田嶌 亜紀子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (70317973)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 常在細菌 / コリネバクテリウム / 抗菌作用 / BGC / 脂肪酸 |
研究実績の概要 |
新規抗菌薬開発のための新たなアプローチとして、微生物ゲノム情報を基に新しい天然化合物(微生物代謝産物)を探索し、有用な新規抗菌物質を見出す取り組みが行われている。ヒトの常在細菌は、重要な創薬資源の一つとなると考えられ、我々はこれまでに常在細菌(コリネバクテリウム)が、脂肪酸存在下で病原細菌(黄色ブドウ球菌)に対して抗菌作用を示すようになる新規の現象を見出している。このメカニズムを解明するため、代謝産物の生合成遺伝子(BGCs)に着目して、抗菌作用の原因遺伝子の同定を試みた。 ゲノム配列から予測された生合成遺伝子クラスターについて、菌株・菌種間での保存状況、遺伝子発現の有無を確認し、候補となる遺伝子クラスターを絞り込んだ。遺伝子クラスターの欠失変異株を作製したところ、抗菌活性の消失が認められ、アミノ酸配列から予測される遺伝子クラスター内の各遺伝子の機能や局在は、シグナル配列を持つ前駆体ペプチド、膜貫通ドメインを有するトランスポータータンパク、修飾酵素であることが示唆された。RT-PCR解析から遺伝子クラスターはオペロン構造を含んでおり、各遺伝子の欠失株変異株の解析から、抗菌活性に必須のオペロンを同定した。またオペロン内の1遺伝子を欠失すると、野生株の抗菌作用に感受性を示すようになったことから、自身の抗菌物質から身を守る自己耐性遺伝子であることが判明した。以上より、抗菌作用は、オペロン構造を持つ生合成遺伝子群が担っていることが明らかになった。これらの結果を基に、今後、抗菌因子の精製・同定を行うことができ、新たな抗菌因子が判明することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗菌因子の同定・解析を行うため、今年度は、①抗菌失活変異株の作製と遺伝子の同定・解析、②遺伝子発現解析に取り組んだ。①については、生合成遺伝子(BGCs)データから予測した遺伝子クラスターの欠失変異株を作製し、抗菌活性の消失が見られ、遺伝子欠失変異株の解析から、抗菌因子の生合成遺伝子を同定することができた。②については、遺伝子クラスターのオペロン構造を明らかにし、菌株・菌種間における遺伝子保有分布を検討した。TetRファミリー等の調節遺伝子は遺伝子クラスター近傍には検出できず、プロモーター解析を含めて脂肪酸による誘導をもたらす仕組みは今後の解析が必要である。現在、抗菌因子の同定を行うため、同定した遺伝子クラスターを基にした過剰発現系の構築が進行中である。以上より、本研究は、ほぼ当初の予定通り進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
抗菌因子を同定するため、現在、構築中の過剰発現系を用いて、菌の培養上清を分画し、因子の同定を行うとともに、精製系を確立する。次に、抗菌作用の機序を解析するために、抗菌因子のMIC、抗菌スペクトルや適正濃度を調べるとともに、抗菌因子による菌の形態学的変化や核酸・アミノ酸などの合成への影響、因子の菌体内局在などを解析することにより作用機序を明らかにしていく。更に、本因子が細菌の病原性に作用するのかどうかについて、黄色ブドウ球菌の病原因子発現への影響やバイオフィルム形成への有効性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子同定の実験において、第一の方法でうまくいかなかった場合に備えて、第二案の費用を予算に組んでいたが、それを使わずに進行できたため、次年度使用額が生じた。
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