研究実績の概要 |
本研究は、これまで積極的な研究がなされてこなかった糖質輸送タンパク質に焦点をあてたものである。なかでも原核生物において糖輸送の初発段階をになう溶質結合タンパク質(Solute-binding protein, SBP)の特異性と構造を網羅的に理解し、応用につなげることを目的としている。 令和5年度は、新規SBPの探索を実施した。原核生物のゲノム情報を参照し、周辺遺伝子情報からリガンド候補を推定できた3種のSBP(SBP1, SBP2, SBP3と略)を選択した。SBP1については、大腸菌による組換えタンパク質の生産と精製および等温滴定カロリメトリーを用いた相互作用解析を実施し、SBP1がニゲロオリゴ糖に特異性を有することを明らかにした。SBP1と既知のニゲロオリゴ糖結合SBPとのアミノ酸配列類似性は67%であり、4%のギャップを含んでいた。SBP1の結晶化条件探索もすでに開始している。今後は既知SBPとの立体構造比較を通じて、両者のニゲロオリゴ糖認識の分子機構を明らかにする計画である。SBP2については、大腸菌による組換えタンパク質の生産系を確立した。SBP3については、遺伝子を取得して発現用プラスミドベクターを構築済みであり、大腸菌による組換えタンパク質生産実験に移行中である。 また令和5年度は、IG2-SBPのアフィニティー精製タグとしての応用を検証した。IG2-SBP融合タンパク質は市販の安価なクロマトグラフィー担体に特異的に吸着し、グルコースによって解離することを明らかにした。現在のアフィニティー精製タグの主流であるヒスチジンタグよりも、簡便かつ高倍率で目的タンパク質を精製できることを明らかにした。
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