研究課題/領域番号 |
23K05043
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
丸田 晋策 創価大学, 理工学部, 教授 (40231732)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 抗がん剤 / 有糸分裂キネシンEg5 / ATP駆動型モータータンパク質 / フォトクロミック分子 / 光制御 / 細胞分裂制御 / 光スイッチ機構 / 他段階制御 |
研究実績の概要 |
キネシン Eg5 は、微小管上を移動するATP 駆動型の生体分子機械で細胞有糸分裂に関わる重要な生理的役割を担っている。Eg5の特異的阻害剤は、有糸分裂を停止させて、ガン細胞の増殖を抑え ることによりアポトーシスを誘導することが示されており、抗ガン剤として注目されている。これまでにフォトクロミック分子の誘導体が、これらの阻害剤を模倣して光可逆的にEg5の機能を制御できることをIn vitroで明らかにした。 本年度の研究では、異なる2種類のフォトクロミック分子を用いて高効率で、且つ多段階の光スイッチ機構をもつ新規Eg5阻害剤の開発い、細胞レベ ルでEg5の活性を光可逆的に制御することを試みた。初めにフォトクロミック分子であるスピロピラン2分子をスルホン化アゾベンゼンの両端に連結した化合物SP-AB-SPを合成した。SP-AB-SPは異なる3つの異性化状態を光可逆的に移行した。このSP-AB-SPの3状態はKinesin Eg5のATPase活性と微小管滑り運動活性に対して異なる阻害活性を示したことから多段階光スイッチ機構をもつEg5阻害剤として機能することが明らかになった。SP-AB-SPは、過去に合成している二つの異性化状態を可逆的に光可逆的に移行するSPSABよりも高い制御効率と阻害定数を示した。これまでに開発した多段階光スイッチ機構を持つEg5阻害剤を用いて細胞機能を光制御する基礎研究として、線虫に存在するEg5と類似する構造を持つキネシンBMK-1を調製した。BMK-1のGTPaseと運動活性は、Eg5のフォトクロミック阻害剤で阻害されることが示された。従って光透過性をも持つ線虫を利用した動物レベルでの光制御実験が可能であることが示された。効率の高い多段階光スイッチ機構を持つキネシンEg5を用いたin vivoでの光制御実験を行うための基盤を構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高い効率の多段階光スイッチ機構を持つキネシンEg5阻害剤を新たに合成することができた。また、細胞あるいは動物レベルで光制御実験を行うために適している線虫に存在するキネシンEg5に類似するキネシンBMK-1がEg5に特異的に作用するフォトクロミック阻害剤が作用することを明らかにしている。さらに、BMK-1をさらにEg5の構造と特性に近づけるための変異体も調製することができている。また、線虫キネシンの専門家である研究協力者(国立遺伝研)と細胞レベルで研究を実施する打ち合わせを十分に行なっている。これらのことから、本年度の研究計画はおおむね順調に進展している考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
多段階光スイッチ機構を持つ阻害剤によるキネシンEg5の光活性制御実験を細胞あるいは動物レベルで実施するための基礎研究として、キネシンEg5と類似するキネシンBMK-1変異体を用いた光制御実験をまずin vitroで実施する。さらにキネシンEg5と同様に線虫の細胞分裂を担うKLP-18の構造をEg5阻害剤が作用できる様に改変した変異体の調製を試みる。そしてin votrにおいて、多段階光スイッチ機構を持つ阻害剤による光可逆的制御実験を実施する。さらに、これまでに利用しているスピロピラン、アゾベンゼン以外の異なるフォトクロミック分子(ジアリールエテン, フルギミドなど)をカップリングさせることにより、多段階の光スイッチ機構を持つ新規のEg5阻害剤の開発を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はin vitroでの基礎実験を中心に行い、細胞レベルでの実験を実施するまでには至らなかった。従って細胞レベル用の費用が残ってしまったので、次年度に実施する細胞レベルの実験で使用する予定である。
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備考 |
がん治療の標的因子である紡錘体キネシンEg5を特異的に阻害する抗がん剤を開発するためにAIが膨大な化合物の中から、我々が推測しているキネシンEg5の機能 部位に結合する96個の化合物を抗がん剤候補として米国AI創薬企業が、AIスクリーニングした。そして、我々は、提供されこれらの候補化合物が実際にEg5を阻 害するかの検証実験を行い、2個の化合物が阻害剤として機能することを明らかにした。
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