研究課題/領域番号 |
23K05080
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
中北 智哉 明治大学, 農学部, 研究推進員 (40852786)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 高濃度塩 / 忌避 / 苦味受容体 |
研究実績の概要 |
苦味受容体T2RはGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり、ヒトでは25種存在することがしられている。これらは7回膜貫通型構造というGPCRの特徴は有しているものの、一般的なGPCR (class A GPCR)とは配列的特徴が異なることから、class T GPCRとカテゴリーされている。class A GPCRにおいてはgeneric GPCR numberingに基づく2.50とよばれるポジションの残基は負電荷のAspであり、対となる形でNa+イオンを構造内に保持していることが知られている。ところが、T2Rの2.50ポジションの残基は正電荷のArgであり、class A GPCRとは逆になっている。このことから、申請者はT2RはCl-イオンと相互作用することが可能であると推測された。一方、マウス舌における電気生理学的実験から、高濃度の塩(150 mM以上)に対する忌避味は酸味細胞と苦味細胞に由来する複合味であり、苦味受容体のシグナル伝達因子をノックアウトした個体では高濃度塩に対するシグナルも半減(酸味細胞側刺激は残る)するとされている(Oka et al., Nature, 2013)。これらの知見を踏まえ、申請者は高濃度塩の忌避シグナルの一方はCl-イオンが苦味受容体に受容されることでもたらされていると仮定して研究を行っている。 培養細胞による測定を試みたものの、浸透圧の関係で高濃度塩(150 mM以上)を滴下することが困難であった。様々な条件検討の結果、最終的にイセチオン酸コリンをベースに、唾液と同程度のミネラルを含有するバッファーを作製することで苦味受容体特異的な細胞応答を取得することに成功した。更に苦味受容体を発現させていない状態のベースの非特異的細胞応答を抑えるべく、キメラGタンパク質G16gust44を安定発現する細胞用いることで系の構築に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
条件検討を実施することがかなり困難であったが、無事に測定可能な系を構築することに成功したため。残るは苦味受容体の忌避シグナルがどのように導き出されるのか、残り2年以内に明らかにすることが可能であると見込んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
25種類のT2Rのうち、T2R42番だけがgeneric residue numberingにおける2.50の残基がArgではなくThrとなっている。また、近傍に位置するHis7.50もCl-の受容に関わる重要な残基であることが想定されるが、この残基も24種では保存されているものの、T2R50においてはAspとなっている。従って、R2.50T変異体やH7.50D変異体を作製することで、Cl-イオンの受容にどのような影響があるのかを確かめる必要があると考えている。 また、2022年に明らかにされたT2R46の構造に加え、つい先日T2R14の構造も明らかになった。これらの構造から、Cl-イオンの受容の可能性を分子動力学シミュレーションなどを駆使して理解していく必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していたよりも実験条件の確定に時間をかけてしまったため、25種の苦味受容体に対するスクリーニングをまだ実施できていない。従って本年度は繰り越した分の実験を実施予定である。
|