研究実績の概要 |
GABA合成に関わるグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)はイネでは5つの遺伝子族を形成し、組織器官や環境ストレスに対して異なる応答を示す。 イネGADをコードする遺伝子(GAD1, GAD3, GAD4)のカルモジュリン結合ドメイン(CaMBD)のコード領域をゲノム編集によって欠失させた変異系統GAD1#5, GAD3#8とこれらの交雑系統#78(GAD1#5xGAD3#8)、そしてGAD4#14-1を用いて環境ストレス試験を行った。Murashge & Skoog培地上で2週間育てた苗条を低温(4°C、5日間)、高塩 (160 mM NaCl、2日間)、乾燥(湿重量を25%減)、冠水(3日間)で処理して回復後に、土に移植して約18日間生育させた。 これらの処理によりGAD1, GAD3, GAD4の遺伝子はシュートでも根でも高度に発現が誘導され、GABA含量も野生型に比べて5倍以上も増加した(ストレス誘導前は野生型と比較して、2~3倍)。生存率を見ると、こららのストレス条件で、野生型日本晴はほとんどが枯死したのに対して、ゲノム編集イネでは高い生存率を示した。特に、GAD1とGAD3の交雑系統である#78は単独の系統に比べて、GABA含量がより高く、生存率もより高い傾向が見られた。このことから、CaMBDを欠いたゲノム編集イネではストレスにより、GAD1、GAD3、GAD4遺伝子の発現が高まり、同時にGAD酵素活性の上昇を伴った活性型GAD酵素により野生型に比べ、栄養組織でのGABA含量が増強され、それが複合的なストレス耐性をもたらしたものと考えられる。 内在性のGABA含量を増加させることで様々な環境ストレスに対して耐性のイネの創出はこれが最初の例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本計画研究の最終的な目標はゲノム編集によりイネの特定の組織に高濃度のGABAを蓄積させ、複合ストレスに対して耐性を示すイネを創出することである。本研究ではゲノム編集により自己阻害ドメインであるカルモジュリン結合ドメイン (CaMBD)を欠失させたイネGAD1, GAD3, GAD4,そしてGAD1とGAD3の交雑系統を用いた。これらの系統を乾燥、冠水、高塩、低温のストレスにさらした結果、いずれの系統でも野生型に比べて、高濃度のGABAの蓄積が見られ、生存率は高い値を示した。知る限りでは内在性のGABA含量を高めることで複数の環境ストレスに対してイネが著しい耐性を示した例はこれが最初の事例である。
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