研究課題/領域番号 |
23K05281
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
岸 茂樹 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業情報研究センター, 主任研究員 (80726050)
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研究分担者 |
前田 太郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境研究部門, 上級研究員 (50414941)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ハチ目有剣類 / スペクトル分析 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
まず、開花植物の花の色の分布を明らかにするために、スペクトル分析を行って得た花の色のデータを用いて主成分分析を行った。その結果、花の色は主に、白、黄、緑、青、紫、赤(近赤)の6色に分かれることがわかった。これらのうち、近紫外光が現れる領域は黄色の領域と近いことがわかった。近紫外光領域の模様は人間には見えないが、蜜標の1種と考えられており、そうした模様は黄色の花に表れやすいことが示唆された。次に、2018年に採集した訪花昆虫の標本について種同定を進め、主要なハチ目有剣類1382個体について同定を完了した。それぞれのサンプルには採集した開花植物名が紐づけられているため、ハチ目有剣類と開花植物のリストを作成した。そこで、ハチ目有剣類の科familyごとに好む花の色を解析を行った。解析には機械学習手法の1つであるランダムフォレストを用いた。その結果、ヒメハナバチ科は黄、コシブトハナバチ科、コハナバチ科、ミツバチ科、ハキリバチ科の4科は白、スズメバチ科、ツチバチ科はピンク、ムカシハナバチ科は紫の花を好むことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終ゴールは、植物の多様な形質を考慮した訪花昆虫と開花植物のマッチングを明らかにし、検証を行うことである。具体的には、訪花昆虫が開花植物の花の色、香り、形態といった形質をどのように認識し、開花植物への訪花を決定しているかを明らかにする必要がある。2023年度はまず訪花昆虫のデータを再整理し、花の色の解析を行った。そして花の色と訪花昆虫との関係について解析した。花の色の解析では、花の色が主に6色にわかれることを示し、さらに近紫外光領域の模様が黄色い花に現れやすいことを明らかにした。次に、花の色と訪花昆虫(ハチ目有剣類)の解析では、ハチ目の科それぞれについて好む色が異なっていることを明らかにした。ヒメハナバチ科が黄色の花を好むことを考慮すると、ヒメハナバチ科の昆虫は近紫外領域の蜜標を認識している可能性が高い。2023年度は花の香りおよび花の形態データも追加で取得しており、2024年度にはすべてのデータを入れた解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、花の色、香り、形態のすべてのデータを組み込み、訪花昆虫とのマッチングの解析を行う予定である。使用するデータは大量かつ多様であることから機械学習手法を用いる。従来の研究ではGLMなど、統計的なモデルが使われてきたが、花の色や香り、形態といった質の大きく異なる情報を適切にモデリングするのは難しい。機械学習はそうしたモデルの構造にとらわれずに予測することができる。具体的にはスパースモデリングと勾配ブースティング法を組み合わせて解析を行う予定である。まずスパースモデリングのうちElastic Netを用いて説明変数を減らす。次にそうして得られた説明変数(特徴量)と目的変数(訪花個体数)をデータとし、勾配ブースティングを用いて花の形質から訪花個体数を予測する。一般に、機械学習手法は予測に特化した手法であるため、予測のプロセスを解釈することは難しい。しかしSHAP値を使うことでそれぞれの特徴量の貢献度を計算することができる。そこでSHAP値を計算し、昆虫の訪花に効果を持つ特徴量を絞り込む。そうして得られた特徴量から色や香りの成分を特定し、検証試験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
花の色のデータおよび形態データを追加取得するために使用する計測器具や実験のための消耗品の費用を計上していたところ、計測や実験の効率化に努めたため、想定よりも少ない費用で行うことができた。一方、解析から絞り込まれた花の形質や成分候補を用いた検証実験を行うにあたり、より多くの香り成分について検証実験を行う必要が生じており、そのため次年度使用額を使って香り成分の純物質を購入し検証実験に用いる計画である。
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