研究課題/領域番号 |
23K05314
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
荒瀬 輝夫 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (10362104)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
|
キーワード | 陸生スゲ類 / 耐陰性 / 低木林 / 遷移 / 発芽 |
研究実績の概要 |
令和5年度には、耐陰性に優れた陸生スゲ類のスクリーニングを行うため、2005年に陸生スゲ類5種を用いて造成した緑化試験地(令和5年で植栽18年目であり、上層に低木林が発達して下層は半陰地となっている)において群落調査とスゲ類の分布の追跡調査を実施した。その結果、当初の植栽種5種のうち,ミヤマカンスゲのみが残存しており,元々のミヤマカンスゲ植栽区から約3mの距離まで生育範囲を拡大していた。また,オオイトスゲとエナシヒゴクサが新たに試験地に侵入しパッチを形成した。以上のことから、ミヤマカンスゲは造成直後の切土のり面の開陽地から陰地に分布できる種であり,オオイトスゲとエナシヒゴクサは低木林化後の陰地に生育する種と考えられ,遷移にともなう陸生スゲ属植物相の変化の1例がとらえられ、これら3種(とくにミヤマカンスゲ)が緑化に有望な種として抽出された。この研究成果は、全国誌(日本緑化工学会誌)に原著論文として投稿し、令和6年5月現在、審査中(修正第2稿の段階)である。 また、種子の保存条件と発芽条件について、開陽地の分布種のヒメスゲとアブラシバ(緑化試験で優占群落の形成に成功したものの、耐陰性の乏しい陸生スゲ類)についての発芽実験をインキュベーターを用いて実施した。しかしながら、当年産の種子を用いたところ、光条件、温度条件、低温処理の有無を組み合わせた実験で、発芽率が極めて低調で(とくにアブラシバの発芽率はほぼ0%)、発芽後の生育も非常に悪いという結果が得られた。最適な発芽条件の把握には至らなかったものの、スゲ属植物の種子の後熟の可能性が示唆されたため、種子の保存期間を変えた発芽実験での検証が新たに必要となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
耐陰性に優れた陸生スゲ類として、有望な種(とくにミヤマカンスゲ)を抽出することができたことは、緑化当初の計画通りであり、永続的な緑化技術の確立に向けて大きな前進であると期待できる。 種子の発芽については、残念ながら最適条件を把握することができず、令和6年度に再実験を行う必要が生じたため、計画にやや遅れが生じた。しかし、発芽に必要と推測される条件について有益な知見が得られた。そのため、令和6年度以降に行う予定の発芽実験(耐陰性の陸生スゲ類)においてもこの知見を活かして、より効率的に発芽条件を明らかにできる可能性が高まっており、生態学的な解釈にもつながることが期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策に大きな変更はなく、令和6年度~7年度には、有望な陸生スゲ類の種子の採集と保存を進め、種子の発芽条件の検討を行う。シャーレとインキュベーターを用い、種子の保存期間、温度条件、光条件、低温処理の有無を組み合わせた発芽実験を実施する予定である。 また、土質と日照を組み合わせた緑化試験地造成を行い(令和5年度に抽出されたミヤマカンスゲとオオイトスゲなどを予定)、土質ごとに寒冷紗を用いた数段階の照度の試験区を設定し、自生の株の移植によって実験個体群の優先群落化を試み、生育のモニタリングを開始する。試験場所としては、前助成期間に続いて、信州大学農学部附属演習林(急傾斜のマサ土地帯)、および附属農場(平地の黒色土地帯)を計画している。 さらに令和8年度~9年度には、導入後の成長・繁殖・生態学的特性の解明を行う。それまでに得られた知見を重ね合わせ、陸生スゲ類の有望な種についての成長・繁殖・生態的特性の知見を着実に蓄積し、緑化導入の技術の基礎を確立するまでを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
発芽実験で最適条件を把握できなかったことで、それに連動する研究の展開(さらなる発芽実験や播種による苗の育成など)に関わる物品費・人件費が抑えられたことが理由の1つである。 また、低木林化した既存の緑化試験地の追跡調査に傾注したことにより、学外への遠征調査の旅費が抑えられたことも理由である。これらについては、令和6年度に適切に計画・実施する予定である。
|